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財前


梅雨があけたのかあけないのか分からない、何とも中途半端な空の下を財前と二人で歩いていた。
ただ単なる友達なだけなのだが、女子の視線が痛い。
生ぬるい湿気た空気にも我慢しているのにまだ更に我慢しろというのか。
なんとも鬼畜なご時世になったものである。
…なんてたかが十数年生きただけの私がぼやいてもなんの効果も生まない。
当たり前と言えば当たり前だ。
そんなことより、とりあえずこの日差しと暑さに私は参りそうになっていた。
学校から駅までの距離で体力は大幅に削られ、気持ちが悪いくらい汗が流れ出ている。
とにかく、暑い。
額の汗をぐいっと粗っぽく拭った時だった。

「詩織、アイス買おうや」

不意に財前が言葉を紡いだ。
本当に不意をつかれて反応がワンテンポ遅れてしまった。
財前がぜんざい以外の物を食べようなんて言うのは珍しい。
呆けたまま財前の顔を見ていれば財前はため息をついて続ける。

「こんな暑い日にぜんざいなんかくったら暑いやろ。アホちゃうんか、お前」
「正論だけどさ…」
「ならええやん、さっさと行くで。はよせな謙也さんに会ってまうやろ」

すたすたと歩いていく財前の背に走って追い付く。
ひんやりと冷気が店から流れ出てくる。
あぁ、オアシス…!
涼んでいると財前に腕を引かれてアイス売り場へ。
どんだけアイス食べたいのさ…。
そう思いながらアイスに手を伸ばせば、思い出す財布の中身。
そう言えば、コピック買ってお釣りをそのままで来てしまった。
確か、四十七円しかなかったはず…。
そっと財布を覗けばやっぱり四十七円。
やっちゃった、と顔を真っ青にしていれば財前が不思議そうな顔で私を見ていた。
お願いだから、そんな顔で私を見ないで…。
とりあえず買えるものがないかキョロキョロ探してみれば、サイダーが目についた。
よし、五十円…!
買えるぜ、と手を伸ばしかけて気付く。

「三円足りないじゃないかよ!」

その言葉に財前はあわれむような、あざけ笑うようななんともイラつく視線を向けてきた。
畜生、お前はそれをやりたいがために目の前でアイスを買いやがったのか!
今気づいても遅い。
私は悔しい思いをしながら帰るしかなさそうだ。
…次から絶対財前の甘い話には乗るもんか。


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