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謙也


ざぶんというのか、どぼんというのか分からないがとにかく私は海に落ちた。
それは意識の中ではっきりしている。
今年最初の海は少し冷たくて、塩辛い。
それでも海の中が陸より落ち着くのは、人が海から生まれたからなのかもしれない。
ぼんやり考えて、目を開けてみる。
少し…否、かなり海水が目に染みたがそれ以上に私は今見ている景色に感動していた。
揺らめく光が綺麗だ。
平面ではない海を通って私に届く光は不規則に揺らめく。
思わず、ずっとこのままでいたいと思った。
けれど、私は残念ながら人間だ。
人魚や魚なら永遠にここで揺らめく光を見れていただろうが、人間には潜っていられる時間というのが決まっている。
苦しくなる胸と、ぼーっとしてくる頭。
これは危ないかもしれないと思い始めたとき、私は誰かに半ば強制的に海面へ顔を出された。

「何のつもりやねん! 溺れたかと思って心配したやろ!?」
「…、光を見てた」
「ホンマ心臓に悪いからやめてくれ…」

言うだけ言って謙也は安堵の息をついた。
そして、顔を反らしながらお前が好きなんやから、アホな事せんとってやと搾り出したかの様に勢いのない声で言うもんだから私の心臓はさっきよりも早く鼓動をうち始めた。
なんでドキドキするんだろうか。
海の中より苦しい。
息が辛くて、謙也をじっと見つめていたら目があってしまった。
また心拍数が増えた。
砂浜の方へ私を強制的に引っ張る彼におもった。

私の体は海から生まれたけど、心は謙也から生まれたのだと。
それならさっきの現象にも納得出来る。
だから私は今日も深海へと飛び込むのであった。



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