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日吉


この間すれ違った人。
ネクタイの色からして先輩にあたるのだとすぐ分かった。
苗字は知らないが、落とした鏡に小さく早坂と書いてあったため、名前だけは頭に残っている。
先輩は清楚で綺麗だったから、見つけるのはそんなに苦ではなかった。
だから今俺は彼女――早坂さんと向き合っている。

「これ落としませんでしたか」
「あ、これ探していたの、ありがとう」
「いえ、気にしないで下さい」
「でもそんなこと出来ないわ。何かお礼をさせてほしいんだけど…」

礼儀正しい詩織さんは、何か考えるようにして口を閉ざした。
別に気にすることでもないのに。
俺が何度も気にしないで下さいと言っても彼女は一歩も譲らない。
妙な所で頑固である。
このままでは埒も明かないし、折角のチャンスをふいにしてしまう。
だから俺はそこでひとつのアイデアを彼女に伝えてみた。

「なら、携帯の番号とアドレス教えてください」
「え、日吉くん、そんなことでいいの? 昼御飯奢るとか、そんなのでも大丈夫だよ?」
「いえ、俺はいいんです」
「日吉くんがそう言うならいいけど…」

早坂さんはおずおず、といった感じで携帯を差し出した。
赤外線で互いのプロフィールを送受信して別れた。
昼休みだったのもあるし、なんだか気恥ずかしかったから。
授業や部活も全て終わり、家に帰ってからふと携帯を見てみれば早坂さんからメールがきていた。
部活お疲れ様、という一文だけだったけれどなぜだか嬉しくて自然と頬が緩む。
なぜ嬉しいのかは分からないのだが、とにかく嬉しかったのだ。
夕食やら入浴を済ませ、少し早いが就寝にするか、と部屋の明かりを消し、布団に潜り込むと携帯がメールの受信を知らせる青いランプを灯した。
見てみれば、おやすみなさい、明日も頑張ってね、というメール。
暗闇に浮かぶ早坂さんのメールを見つめながら考える。
多分、これが一般的に恋というのだろうな、と。
一目惚れに近いというのが驚きだが、そんな恋もあるのかもしれない。
自覚するとなぜだかこそばゆくておやすみなさい、という返信だけして眠りの海に身を沈めた。
寝る寸前に思ったのは明日も会えるといいな、という願望だった。


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