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日吉


私は既に第二次成長期が過ぎ去り、女子にしては高めの身長は高めのままぴたりと止まった。
168センチ。
何度この身長に泣いたのか私は覚えていない。
いや、途中から考えるのを止めた、の方が正しい。
だって、身長だけでフラれた回数を覚えていたくなかったから。

「身長高いのも困り物だなー…」
「いいんじゃないですか、俺は好きですよ」
「日吉、いつからいたの」
「ついさっきからですよ。壮大に独り言を言う少し前からです」
「うわ、恥ずかしい。忘れなさいよ、さっきのは! これは先輩命令だからね!」
「詩織さんが先輩、ねえ…」

小馬鹿にするようにして日吉は私の隣に座った。
人の少ない図書室は快適だ。
私以外の女の子らしい女の子の桃色恋バナが一切聞こえないから。
リア充なのを自慢して何が楽しいんだろう。
リアルを楽しんでいない私には理解できない話だ。
私は、この先そんな桃色の会話に入ることは絶対ないのだし。
はあ、とため息をつけば日吉が詩織さんもため息をつく事があるんですね、と皮肉ったような言葉を投げてきた。
おい日吉、私を何だと思ってるんだ。

「日吉、何かな、私がため息ついちゃいけないのかな?」
「いつも鬱陶し…いや、いつも笑ってる詩織さんがため息なんて、珍しいなと思っただけです」
「コラ、鬱陶しいぐらいって言おうとしただろ」

そう問えばさあ、と知らんぷりして活字を目で追い始める日吉。
こうなっては日吉は誰の話も聞く耳を持たなくなる。
それを経験から学んだ私は仕方なしに私も読もうとしていた本を開いた。
ありきたりなラブストーリーを読んでいつもの如く自分の身長を恨む。
こんなに高くなければ私だって彼氏の横を歩いていたはずなのに。
小説はいつだって都合よく出来ている。
現実はこんなにも残酷だ。

「詩織さん、俺と付き合いませんか」
「いいよ、どこに?」
「…ボケるのやめてもらえませんか、俺は貴女を好きだといってるんですが」
「え」

日吉の言葉に顔を上げれば日吉の真剣な顔があって思わず赤面してしまった。
けれど、私は彼の横にいる資格はない。
だって、身長高いし性格は正に男。
日吉にはもっと女の子らしい子がお似合いだ。
気のひとつも使えない男女、誰も好きになるはずがない。

「日吉、私は君の隣に立つ資格はないよ」
「なぜですか、それは俺が決めます。大方、その高い身長と男勝りな性格でしょう?」
「なぜわかった」

私がそう問えば日吉はそれで悩んでいたことも、それが理由でフラれたことも知ってますとさらりと答えた。
どこ情報か問いただそうと思ったがどうせ忍足だろう。
全くアイツは余計なことをしでかす野郎だ。
後でコーヒーとチョコと抹茶シュークリーム奢らせてやる。
忍足への制裁を考えていると日吉が口を開いた。

「さっきも言いましたが、俺は身長高い人嫌いじゃありません。低いよりまだいいですからね」
「でも私は、男女だよ。日吉の隣に立つには不釣り合いだ」
「…なんでそんなに自信がないんですか。その辺のミーハー女子とは違うでしょう、貴女は。俺は貴女の隣にいるのが好きです、真っ直ぐ俺を見てくれますからね」

そう言ってのけた日吉は照れているのか私と目を合わそうとしなかった。
今までコンプレックスでしかなかった身長を好きだと言ってくれて、それ以上に私の性格を、いや私の隣にいるのが好きだと言ってくれた。
今までこんなに嬉しいことを言われた事はない。
返事はどうなんですか、と言われて私は、私も日吉が好きだよとだけ答えて赤く熱を持つ顔を本で隠した。


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