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日吉


今日は詩織さんが帰ってくる日だ。
祖母の家で俺はそわそわといったり来たりを繰り返していた。
だが、仕方がない。
詩織さんと合うのは半年ぶりなのだから。
冬休みに帰省したのが最後だったはずだ。
詩織さんは忙しい人で、あまり時間がとれない。
だから会えるのも少ない日数だけで、幼少期はよく駄々をこねた。
その頃から親戚である詩織さんが好きだったのだ。
祖母がそろそろだ、とでも言うように詩織さんの好きな茶菓子を準備し始める。
俺はそれを落ち着かない気分のまま見つめるだけ。
早く会えないだろうか、と時折チラチラと引き戸へ目をやるが詩織さんはまだ帰ってこない。
高速バスの時間的にはそろそろつくはずなのだが、一向に詩織さんが帰ってくる気配はない。
流石に不安になってきて席を立ったとき、がらがらと音を立てて引き戸が開かれた。
そしてそのあとに聞き覚えのある柔らかい声。

「ただいま帰りましたー。熱くてアイス食べながらだったからちょっと遅れた」
「詩織さん!」
「おー、若くん久しぶり。若くんいつも早いよね、お姉さんびっくり」
「跡部さ…いえ、部長に無理を言って休ませてもらっているので」
「部活はちゃんとやりなよー。若くんの学校、テニスの名門なんだから」

そう言って俺の頭をくしゃりと撫でる詩織さん。
跡部さんや忍足さんにやられたら即振り払うが、詩織さんのは別。
ただ撫でてくれるだけで嬉しいのだ。
されるがままにされていたらそうだ、と詩織さんは鞄から一冊の本を取り出した。
そこには詩織さんが描いたイラストが所狭しと並んでいる。
イラストレーターとして働く彼女は人気で、引っ張りだこだ。
忍足さんが読んでいたライトノベルの挿し絵なんかも描いている。
最近ではあちこちで紫織さんの絵を見るようになって嬉しい反面、少し遠くなってしまったような気がして悲しかった。

「今回は何日いるんですか?」
「明後日には出るつもりだよ。仕事が山積みだからね、この休暇も半分は無理に押しきったから」

そう言って笑う詩織さんに俺はそうですか、としか相槌を打てなかった。
久しく会えたと思ったらそんなに短い間だけなんですか…。
今日と明日が終わればまた長く会えない。
今度はいつ会えるんですか。
そう問おうとした俺は、まだまだ駄々をこねたあのときと変わっちゃいない。


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