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真っ白な病室で彼女は眠っている。
俺の、大切な詩織。
帰宅途中に飲酒運転の車に跳ねられて意識不明の重体に陥った。
あの日から、今日で一週間がたつ。
時計が刻む時がひどく遅くて、永遠の中に放り込まれたような感覚になる。
無機質な電子音を聞きながら、まだ目を覚まさない紫織の手を握る。
いつもなら握り返してくれるはずの白魚のような手は、力が入ることなくベッドの上に置いてある。
いつになったら普段のように長太郎くん、って呼んでくれるんだろう。
毎日通って話しかけてみても相槌も、花のように明るい笑顔もない。
それが切なくて、涙が出そうになる。

「ねぇ、詩織? もう一週間だよ、俺辛いよ…」

そうこぼしても詩織は目覚めない。
飲酒運転した運転手さえいなければ、こうはならなかったのに。
逮捕された運転手に毒づきながら自嘲した。
世界平和を望むのに、こんな風に人を憎んじゃダメだ。
矛盾する意思に苦笑と自嘲しか起きない。
はぁとため息をついたとき、ぱっちりと目を開いた詩織と目があった。
意識が、戻った…!

「詩織、分かる? 俺だよ、鳳長太郎だよ!?」
「分かるよ、長太郎くん…。テニス部二年の長太郎くん」

控えめに微笑む詩織に安堵が広がる。
良かった、意識が戻って…。
それに、俺の事も覚えているし、おそらく問題はないだろう。
日吉や跡部さん達、心配したんだよ?
そう告げれば、詩織は微笑みを崩さずにこう返してきた。

「それ、誰?」

仲が良かったテニス部のメンバーに誰、の言葉。
俺は呆気にとられて何も言えなかった。
俺の事は覚えてるのに跡部さん達を忘れてるなんて。
ショック、という形容詞がぴったりだろう。
医師の話によると、事故の際、頭をぶつけた時によくある現象らしい。
もっとも、今回のようなケースは極稀らしいのだが。
病室に戻れば、長太郎くんと笑顔で俺を出迎える詩織。
彼女には俺だけが確かな存在。
そう考えると俺は、少しの優越感とその何倍もの絶望しか感じられなかった。


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