QLOOKアクセス解析檸檬色のラプソディア | ナノ

風に乗って届く硝煙の匂いと、胃の中をかき混ぜるような鉄の匂い。嗅ぎ慣れているはずなのに、やっぱりどうも受け付けてはくれないようだ。
私の中にまだ良心の欠片が残っているんだろうか。……まさかね。考えてみてすぐ否定した。良心の欠片が残っているなら、そもそも命令であっても人の命を奪うなんてことしないはずだから。
私の良心は梶井さんにだけ、残っていればいい。私にとって梶井さん以外は取るに足りない存在、だから。

「……ふむ、全員始末したか」
「はい」
「終わったなら戻るぞ。潮風は胸に毒だ」

黒い外套を潮風に揺らしながら、芥川さんは私に視線を向けずに言った。それから私のことなんか目もくれずにすたすたと歩いていく。私はその背中を、一定距離を開けながら追いかけた。
ポートマフィア。私を拾って置いてくれている組織。私にとっては私の居場所であり、私を生かしている大切な組織だけれど、客観的に見れば真逆なわけで。
港湾都市横浜の港を縄張りにする凶悪マフィアであり、街の暗部。街の政治や経済の殆どに噛んでおり、ポートマフィアへの逆らいは死を意味する。
そんな、諸悪の根源とでもいうような組織が、私の居場所。居心地はいいし、命の危険に晒されるとうことを除けば、一般的な会社と何も変わらない……と思う。私は一般社会のことは何も知らないからはっきりと断言はできないけど。
本部へ戻れば、他の任務へ行っていた梶井さんがいた。心なしか朝より顔色が健康的に見える。実験が成功したのかもしれない。梶井さんはなにより実験が大事だから。
梶井さん。そう声を掛けようとしたら、くるりと梶井さんがこちらを振り返って、ひどく安心した顔をして口を開いた。

「月花!良かった、ちゃんと帰ってきてくれて!」
「梶井さんも帰ってきてくれて良かったです。怪我はありませんか」
「……あるといえばあるし、ないといえばないかな……。僕のことは置いといて、月花は怪我ないよね? 痛いところないよね?」
「大丈夫です。どこも怪我はないです」
「良かった良かった。月花になにかあったら僕はどうしたら……」
「落ち着けばいいと思います。怪我くらいじゃ人間は死にませんよ」
「月花はそうやって自分を大事にしないんだから……」

大体月花はいつも……。プンプンという効果音がつきそうなくらいに怒っている梶井さんは私に小言というか、説教というか、形容できないような言葉をつらつらと連ねていく。
叱られてるとか、怒鳴られてるとかそういうんじゃなくて、なんというか諭すような感じ。梶井さんは声を荒らげたりしない。ただただ諭すように、納得させるように理論立てて言葉を発していく。
私が素直に肯けば、梶井さんは息を吐いてから肩から力を抜いて優しく笑った。
それから私の頭にポン、と手を置いて頑張ったね、お疲れ様と言いながら私の頭を撫でてくれた。私は梶井さんの少し骨ばった手で撫でられるのがたまらなく好きで、梶井さんに頭を撫でてもらいたいがために任務を成功させているようなものなのだ。
さ、報告したら家に帰ろう。ゆっくりと歩き出した梶井さんにおいていかれないように、私は梶井さんの横へ並んで少し大股気味に歩き出したのだった。
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