QLOOKアクセス解析戦火の花嫁 | ナノ
ただただ、俺は死に場所を探していたんだと思う。空で敵なしといわれて長く経つ。
仲間が海へ、死へ吸い込まれていくのを見続けた俺の精神はもうすでに疲れ切っていた。
せめて最期は俺よりも上のパイロットに撃たれたい。俺はただそれだけで飛んでいた。

交差するシキ

急に左へ旋回した永峯の機体にワンテンポ遅れて相手の機体も左へ旋回する。こうも早く反応されては後ろにつけない。
永峯は相手の機体の後ろについてでしか狙撃ができない。戦闘機に数回しか乗ったことがないため、敵機を前に見なければまともに撃てやしないのだ。
山崎のような熟練パイロットなら他にも方法があるが、永峯には他に取れる方法がない。これは非常にまずい。いくら振り切ろうとしてもぴったり横に着かれ、下手をすれば的になるのは永峯だ。
永峯は上から相手の後ろにつくのが得意だった。それができない今、彼女に打てる手はない。このまま何もできなければ堕ちるのは間違いなく永峯だ。
徐々に焦る心中に追い打ちをかけるかのように、機関銃の音が迫る。相手機が永峯の後ろについたらしい。今は反撃について考えている場合ではない、とにかく避けなければいけない。小さく操縦桿を右へ倒せば、機体に走る大きな衝撃。どうやら読まれていたらしい。
永峯がメーターに目をやると、数値はぎりぎりなんとか正常値内にとどまっていた。いくら正常値内とはいえ、ここで応戦しても分が悪いのは明らかに永峯だ。勝つための策があるわけでもない今、下手に持ち直しても彼女が一方的に撃たれるのは目に見えている。ならばここで一旦引くのが無難だろう。
そう樹幹を一気に倒し、翼がダメになったことを、そして高度を急に落とし動力がなくなったことを装って雲の中へ。雲の中で様子を窺うが、追ってくる様子はない。だが確実に近くにはいるだろう。
物資輸送で培った勘だけを頼りに雲から出てそっと敵機の後ろへ。ごめんなさい。小さく呟いてスイッチを押した。思いがけない攻撃に敵機はどうすることもできず、翼やエンジンタンクに弾をしこたま食らい高度を落とし始めた。
敵国の戦闘機は自力での脱出が難しい。パイロットを守りすぎたために、パイロットは命を落とす。何という皮肉なのだろうか。堕ちる機体の中では有能なパイロットも他の平凡なパイロットと変わらないのだ。
エンジンタンクを撃ったのだから爆発するだろう。巻き込まれてはたまらない。そう思い永峯が敵機から離れようと操縦桿を少し倒したとき、敵機のパイロットの顔が見えた。
飛行帽も酸素マスクもゴーグルも。全て取り払ったパイロットは永峯の方を見上げて笑っていた。金糸のような美しい金髪が目にまぶしく、永峯の目には一瞬で彼の笑顔が焼き付いた。

――ありがとう。

そう、口が動いたような気がした。それが永峯に対してなのか、機体に対してなのか。それは分からなかった。
だが、死に際にしては美しすぎる笑顔はなぜだか永峯に恐怖を与えた。どうして死ぬと分かっているときに笑えるのだろう。機体から離れた時、大きな爆発音とともに空気がびりびりと震えた。
あのパイロットは死んでしまった。他でもない永峯が彼を殺したのだ。殺らねければ殺られる。それは正しいし、否定はできない。もし永峯が墜落したふりをして逃げていても、いつかきっと彼に撃たれただろう。
頭では分かっているが、心が追い付かず永峯は逃げるようにして空母へと向かった。幸いなことに空母の近くには敵機はいない。ここで一機でも敵機がいれば、永峯は戦うことをせず撃たれに行っていたかもしれない。
彼女は大好きな空で人を殺し、空を汚した。そのことは永峯にとっては恐ろしい重罪であった。だからどうしていいか分からないし、苦しくて仕方がないのだ。
このまま戦闘機に乗っていたら、自分の心は人から離れてしまうのだろうか。永峯はそれを考えてたまらなく怖くなった。今日と同じように空を汚し続けてしまうのだろうか。平気でそれを行っている自分を想像して吐き気がした。
人を殺め、空を汚す罪人である永峯と、その罪悪感に刺され続ける永峯。どちらが本物で、どちらが偽物なのだろう。もしくは両方本物なのか、両方偽物なのか。
考えれば考えるほど恐怖が永峯の胸を、首を、頭を締め付ける。いやだ。怖い。叫んでも誰も反応しない。この恐怖にさいなまれているのは自分だけなのか。知らない間にこぼれていた涙と共に、永峯の口からはごめんなざいという謝罪の言葉が繰り返しこぼれていた。
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