QLOOKアクセス解析戦火の花嫁 | ナノ
俺が飛行師団に所属してから、半年がたった。
負けなしと謳われる大国とやりあうこの国。飛行師団を除いた海軍、歩兵団は有能で。
空を制せば、戦争はこちらの勝利に終わるだろう。そんな中、じわりと黒が広がったのはアイツのせいだったと思う。


空の不在着信


――眩暈がするので、操縦できません。
今日も永峯のくぐもった声が、部屋の中から聞こえた。瀬戸と花宮が凄腕のパイロットだといった女パイロット。山崎は彼女に大いに期待したが、永峯は第一師団に所属してからずっとこの調子だった。
いくら有能だろうと、作戦に参加しないのなら意味はない。いてもいなくとも、大差なんてない。いない方がましだとさえ思う時があるのだから、今現在としてはいい影響などありやしない。
ぬか喜びだったか。山崎がため息をついて、ドアを睨んでいることなど永峯は知りやしないのだろう。
何度山崎が怒鳴ろうと、永峯は部屋から出てくるどころか、返事すらしない。永峯が男だったなら問答無用で部屋から引きずり出すが、永峯はそういうわけにいかない。どれだけ腹に来たとしても、女にそういうことはしたくない。妙なところで山崎は紳士だった。
今日も一人欠けて出撃か。再びため息をついて山崎は頭をぐしゃぐしゃとかき回した。
ああ、腹が立つ。どこへも向けられない怒りが山崎の胸を占めていく。
軍に入ったのだから、集団行動は乱してはならない。軍なんてものは国のために存在してるようなものだ。志願しようが徴兵されようが、軍人になった時点で自分は自分のものではなくなる。国のために命を捧げる駒に成り下がるのだから。軍人は、人間のようで人間ではない。山崎の中ではそうであったし、一般的もそうだった。永峯はそれが分かっていないらしい。
永峯はなんのために軍に入ったのだろう。何もしないのなら、税金泥棒と変わらないではないか。そこまで考えてふと思う。まさか、それが目的なのではないだろうか、と。だったとしたら、とんでもない奴だ。もしそうだとしたら、永峯は花宮や瀬戸がわざわざ探すような人間だとは思えなかった。
花宮や瀬戸が花を添えるために飛行師団にいれたわけではないだろう。二人ががそんな理由で体力的に男より劣る女を軍に入れるはずがない。何かしら理由があるはずだと山崎は考えた。だがその理由が全く見えない。
理由があるにしろ、永峯が自室に引きこもったままなら意味がない。何らかの措置は取ってもらわなければ、ただでさえ弱い飛行師団がますます弱くなる。パイロットの士気が下がれば、比例するかのように師団の力も落ちる。それは何としても避けなければならない。
山崎は司令室へ向かい、ドアを数回たたいた。短い返事の後にドアを開け、中で紙の束とにらめっこをする花宮の前へ移動すると、花宮と瀬戸はいきなり司令室を訪れた山崎に怪訝そうな顔をしていた。
……俺がここに来た理由を分かっているくせに。回りくどいことをする奴らだな。山崎は少しむっとしたが口には出さなかった。口に出したところで言いくるめられるだけだ。それが分かっているのに無駄なことはしようとは思わない。

「なんだ、弘。俺は忙しいんだよ。お喋りならその辺の暇そうな奴らとしとけ」
「永峯のことだ。アイツ、一度も爆撃に参加しねえんだよ。お前らなんで永峯を飛行師団に所属させた?」
「分かんねえのか? 永峯が有能だからに決まってんだろ。無能な人間を入れるほど、俺は馬鹿じゃねえよ」
「お前は凄腕だとか有能だとか言うけどな、俺は見てねえんだから有能か無能かなんてわかるわけねえだろ!?」
「山崎、それぐらいにしとけ。少し落ち着いて話そう、な?」
「うっせえよ! 凄腕だろうが有能だろうが、飛ばなきゃただの女なんだよ!」
「黙れ!」

バン、と机の叩かれた音が司令室に響いた。突然の大きな音に、山崎も瀬戸も口を開けたまま何も言えなかった。言葉さえ、出てこない。言いたいことは、たくさんあったのにそれが一瞬にして霧散してしまった。
しんと静寂の落ちた司令室の中では、花宮の繰り返す荒い呼吸音だけがやけに大きく響いた。床に落ちた書類が、花宮がどれだけの力で机をたたいたのかを可視化している。
いきなり声を荒げた花宮に呆気にとられていると、花宮がぎろりと山崎を睨んだ。その顔に浮かんでいたのは怒り。ただそれだけで。
ここまで怒りを露わにした花宮など、長い付き合いになるが山崎も瀬戸も見たことがなかった。急に湧き上がってきた恐怖が、さらに山崎から言葉を奪っていく。微動だにできない彼の耳を抜けたのは、こんな言葉だった。

「俺だってな……! 好きでアイツをこんなとこに置いてるんじゃねえんだよ!」

声もただただ怒りに満ちていて。花宮は、山崎でも瀬戸でもない何かに怒っていた。それは付き合いの長さでなんとなくわかった。花宮はおそらく、本人ですら分からない何かに怒っている。
考えても花宮の怒りの先が何なのかなんて分かるはずもなく。山崎はただただ黙って立ち尽くすだけだった。
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -