QLOOKアクセス解析戦火の花嫁 | ナノ
傍観している限り、あの二人は歩み寄れないような気がする。
それでいいのか悪いのか。俺にはよくわからない。というか、分かるはずがない。
あの二人は昔からよくわからない関係を築いていたし、よくわからない考えをしていたから。
本人達が幸せなら。それはそれでいと思うよ。俺はただそれを眺めているのが幸せだから。

相反する心胸

永峯は司令室へ向かい、ゆっくりと数回戸をノックした。乾いた音が響き、その余韻が消えないうちに中から瀬戸の声でどうぞ、と返ってきた。
引き返したい衝動に駆られながらも、永峯は戸を押し開けた。戸の向こう側は一度入ったことがあるとは言え、永峯は入るには躊躇ってしまうような内装。きっと何度ここへこようとこれには慣れないだろう。一歩踏み出しながら永峯はそう思った。慣れる慣れない以前にここへ来ることがこれ以上ないことを祈るが。
花宮の方へ歩きながら、永峯はぼんやりとこれが中将や准将に知られたら不慮の事故を装って殺されるのだろうかと考えた。実際にそうなる可能性があるのだから恐ろしい。軍の独特な体質には安心できる要素が全くない。気が休まる時間なんて。彼女はそこまで考えそれより先を考えるのをやめた。これ以上先を考えてしまえばさっき自分がやったことを正当化してしまうことになる。それだけは嫌だった。
花宮にソファを勧められ、勧められるままに腰を下ろすと花宮がその隣に腰を下ろした。なぜ向かいに座らない。永峯の気持ちを読んだかのように彼は唇の端に少しだけ笑みを浮かべた。
……ホントにいけ好かない。永峯は眉をしかめそうになるのをこらえ、そっと視線をそらした。花宮真という人間は本当に苦手だ。彼女は内心で思いっきり顔をしかめ、ぺっと唾まで吐いた。

「生きて帰ってきて、よかった」
「心配をおかけして申し訳ありませんでした」
「気にするな、無事に返ってきただけで十分だ」

そう言って泣き笑いの表情を浮かべる花宮は見ていて痛々しい。この表情を作ったのは。永峯の心臓が大きな音をたていつもより早い鼓動を繰り返す。自分の唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。さっきまで苦手だと思っていたのにどうして。自分の気持ちと体の反応が理解できず永峯はただきゅっと服を握るしか出来なかった。
包帯の巻かれた頭。微かに痛みはあるが出血はないし、意識だってしっかりしている。大したことはない怪我だが、この怪我のせいで花宮にいらない心配をかけてしまった事が申し訳なく思えてきた。さっきまでそんなことなかったのに。永峯は自分の気持ちの変化に振り回されると同時に違和感を感じていた。
ぎゅっと永峯の手を握る花宮。いきなりの出来事に永峯は目を白黒させたが振り払うわけにもいかずただされるがままになっていた。微かに震える手を知ってしまったら振り払えるはずがないじゃないか。永峯は何とも言えない悲しそうな顔をして花宮の顔を見つめていた。
手が震えるほど、花宮は何かにおびえている。威厳ある堂々としたいつもの花宮の面影などどこにもない、今にも消えてしまいそうなほど弱々しい花宮に永峯はなにもできやしない。なぜそんなに怯えるのか。なぜ、辛そうな顔をしているのか。検討もつかないのだから仕方がないといえば仕方がない。
それでも花宮が何を見ているのか。この世界が彼の瞳にはどう写っているのか。それがわかれば適切な行動がとれるのだろうか。無意識のうちに花宮の目を覗き込んでいたらしく、永峯はじっと赤く充血した目を凝視していた。

「花宮、司令……」
「……泣いたのか、永峯。目が赤いし、腫れてる」
「その……」
「……。悪い、そこまで踏み込むべきじゃねえな」
「いえ、お気になさらず。私が、悪かったんです、だから……」
「……顔、傷付いちまったな。女なのによ。頭も怪我したんだろう?」
「いいんです。仕方ないです、戦争、なんですから」

――それより花宮司令が。
永峯がそう言おうとしたが、花宮が浮かべた悲しげな笑みに開いた口が閉じた。言えない。本能的にそう察知して永峯は俯いた。花宮の悲しそうな顔は見たくない。胸を締め付けられるような何とも言えない痛みを味わいたくなんかない。
ああ、もしかして私は疫病神なのではないだろうか。ふとそう思って永峯はこの上ないくらいに寂しく、辛く思った。疫病神なら、一緒にいるといいことなんてないに決まってる。疫病神がそばにいるから花宮はきっと苦しむのだ。そろそろここを出たほうがいいかもしれない。
ずくり。変に痛む胸に見ないふりをして、永峯は頭を下げて司令室を後にしようとした。ドアの前に立ち、ドアノブに手をかけたとき、後ろで聞き逃してしまいそうなほど小さな声で花宮が呟いた。
――永峯、本当に、すまない。
彼が何に対して謝ったのか、永峯にはよくわからなかった。しかし何に対しての謝罪なのか問うには花宮の声があまりにも悲痛で、結局永峯は敬礼して部屋を後にするしかできなかった。
……私が花宮司令にできることはなんだろう。永峯はドアを閉め、その場から動かず考えてみた。……本当は、考えずともとっくにわかっていることだ。それをなかなか行動に移せないだけで、彼にできることも自分がやるべきことも全てわかっている。
それでも行動に移すことのできない自分は。永峯はどうしてだか辛く悲しい気分になってぎゅっと拳を握り締めた。
花宮司令なら、何をすべきかわかりますか。振り返って司令室の中の花宮司令に問いかけた。返答は、ない。
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