QLOOKアクセス解析戦火の花嫁 | ナノ
山崎から永峯が怪我をしたという連絡が入ったことを花宮に告げれば、今までにないくらいに動揺してコーヒーカップを肘で倒した。
何でもない風に振舞ってるけど、それが演技だってことバレバレだよ。気が付けば窓の外に視線を向けて、落ち着かない様子で外を見てる。バレないはず無いでしょ?
花宮らしくないね。俺がいえば、花宮は不機嫌そうにうっせえと返した。自分らしくないって思ってはいるんだね。
思わず小さく笑えば、舌打ちが一つ返ってきた。本当に、素直じゃない。永峯が心配なら心配だって言えばいいのに。


ミツマタは嘲笑う


空母から飛行機を下ろし、格納庫から出れば山崎が待ち構えていた。彼の顔にははっきりと怒りが見て取れ、永峯はげっと顔を引きつらせそうになった。
抑えたつもりだったがどうも抑えきれていなかったらしく、山崎の眉間にさらに皺が酔った。ああ、やらかしたかもしれない。苦々しい表情を浮かべる永峯に、山崎が口を開いた。

「お前な、無線に応答しろ! 勝手なことしてんじゃねえよ!」
「すいません」
「すいませんで済むかよ!? お前は今、軍に所属してんだよ! お前一人で戦ってんじゃねえんだ! 単独行動が元でほかの奴らまで危険に晒すつもりか!?」
「……すいません」
「空を汚したくねえって言うなら、自分の行動がどういう結果を生むか考えてから行動しろ! これ以上勝手な行動したらただじゃおかねえからな」
「……はい」
「……分かってんのかよ……。……花宮がお前を呼んでたぞ、司令室に行け」

吐き捨てるようにそう言い残して、山崎は永峯の元から去っていった。永峯は俯いて唇を噛みながらしばらくの間立ち尽くしていた。
何も怒鳴られたことが怖かったり、嫌だったわけではない。空を汚したくないという信念を抱いているくせに、それに背くような行動をしてしまった。山崎に言われて、自分のやっていたことがどういうことなのかに気付いて、自分に嫌気が差したのだ。
――私は、なにをやっているんだろう。できるなら、このまま消えてしまいたい。
幸いなことに、格納庫に戻れば飛行機がある。人のいないいまなら、ここから逃げられる。
ここにいたって何もできやしない。役に立てない。役に立つどころか、他のパイロットの足を引っ張り危険に晒しているだけだ。
自分なんて、ここにいない方がいいんじゃないだろうか。消えてしまいたい。ポツリと呟いた言葉に、永峯は嘲笑した。
ここから逃げたところで、きっと花宮はどんな手を使ってでも永峯を連れ戻すだろう。今回だってそうだった。いきなり瀬戸が永峯のもとへやってきて、有無を言わさず軍へ引き込んだ。
逃げたって、追いかけっこが繰り返されるだけで根本的な解決にはならない。戦争が終わるまで、気の休まらない毎日を送る気もない。
それに、逃げ出せば花宮の顔に泥を塗ることになる。彼のことが好きだとか、そういうわけではない。若くして司令になっている花宮をよく思わない官僚もいるだろう。
永峯が逃げ出せば、それについて色々と言ってくるに違いない。そうなれば軍の信用はがたっと落ちる上、兵士の士気も落ちるだろう。
兵士の士気が落ちたら最後、この国に待ち受けているのは敗戦だ。それはなんとしても避けなければならない。
結局のところ、永峯に逃げるなんて選択肢は残されていないのだ。わかっていたことだが、改めてそれを認識すると自然と嗤えてくる。どうしようもないことを考えたって、どうしようもないのに。永峯はため息を一つついて司令室へ歩き出した。
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