QLOOKアクセス解析氷砂糖の心臓 | ナノ
花宮の様子がおかしい。朝練の終った体育館でそう思った。
ワンテンポ、動きが鈍かったり早かったり。いつもの通りのうごきでないことは、チームメイトであれば気付くのは容易い。恐らく、古橋達も気付いているだろう。
当の本人は普段通りに動いているつもりだろうが、客観的に見ればおかしいわけで。恐らく昨日なにかしらあったんだろう。
バスケのことか、夕凪のことか。花宮の調子が狂うのは、そのどちらかだ。俺の予想では夕凪が原因だと思う。
昨日の練習後は、いつもの花宮だったしな。どうせ口喧嘩したとか、それぐらいのことだろう。
花宮はメンタルが強いように見えて、実は繊細だったりする。ちょっとしたことで落ち込むし、悩み込む。
またつまらないことで口喧嘩して、どう仲直りするか悩んでるんだろう。前もおんなじ事があったから、何となく察しはつく。
前回の口喧嘩は、目玉焼きに何をかけるか、だった気がする。花宮にそれを聞かされた時のしょうもなさは、この先味わうことはないだろうと思った程だ。
今回はなんだ? スイカに塩をかけるかかけないかか? それとも、焼肉には何をつけるかか?
俺に相談されるであろう内容をあらかじめいくつか用意しておいて、どんなにくだらない内容であってもなにか言える様に準備をしておく。練習後に頭使うと眠くなる、早めに相談するならして欲しいんだけどなあ。
更衣室でカッターシャツに腕を通しながら、必死にあくびを噛み殺している時だった。俺の横でボタンを止めていた花宮が口を開いたのは。

「瀬戸」
「なに? また夕凪と口喧嘩でもした?」
「ちげえよ」
「そうかそうか、また口…って違うの?」
「ああ。…それよりもっと重大なことだ」
「…え? それ以上?」

花宮の言葉に俺の手が止まる。夕凪と口喧嘩する以上に重大なことってなに。付き合い始めた、とか? …いや、それなら重大なことだとは言わないだろう。…ならなんだろう…?
俺が悩みすぎて変な顔をしていたのかもしれない。花宮は俺の方に目を向けず、ロッカーの中を真っすぐ見据えながらなんでもないように呟いた。
――昨日、キスしちまったんだよ。
抑揚のない声で紡がれた言葉に、眠気が完全に飛んだ。今、花宮はなんていった?
キスしたってどういうことだ、夕凪とは恋人じゃないよね。なのになんでキスなんか…。
混乱する俺に、花宮は少しめんどくさそうに続けた。

「俺が一方的にだ、アイツは俺がキスしたことなんか知りもしねえよ」
「…え? ますます状況が分からなくなったんだけど」
「ちったあその頭を働かせろバァカ!」

…逆ギレされても困る。まだ髪を下ろしていないだけ頭は働くけど、十分寝れそうなほど眠気はある。そんな状態で思考なんて出来るか。花宮の言葉を借りるなら正に“バァカ”、だ。
痺れを切らしたのか、花宮がキスに至った経緯を話始めた。まとめると待ち合わせに来なかった夕凪を迎えに行ったら、寝ていた夕凪に流れでキスしたと。
自分がやった行動に今更羞恥を感じているらしい花宮に、俺はため息しか出なかった。恥ずかしがるなら最初からやるなよ…。それを聞かされる俺の身にもなれ…。
とりあえず相談されたんだから、どうにかしてやらないとならない。夕凪の方は原と古橋に頼むか。ザキとも接点があったはずだから、ザキも巻き込んでやれ。ザキだけこの面倒ごとから逃げるなんて許さない、ザキのくせに。
とりあえずメール送っとかないと。そう思う頭とは裏腹に、俺の目はどんどん閉じていくのだった。
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