QLOOKアクセス解析氷砂糖の心臓 | ナノ

遅い。アイツのことだから時間ピッタリに体育館前に来るとは思ってなかったが、これはあまりにも遅い。
スマホのディスプレイを見て、俺は舌打ちをした。もう二十分も過ぎてやがる。
一緒に帰りたいとか言った本人がいねえってどういうことだ。俺は貴重な時間を使って待ってやってんだぞ、クソが。
このまま放置して帰ってやってもいいが、それをやると明日困るのは俺だ。何度も何度も同じことをうるさく繰り返されるのは避けたい。
それに、俺ぐらいしか貰い手がねえアイツも一応は女だ。日が沈んで暗い中を一人で歩かせるのは、どれだけ非が向こうにあろうと、許せることではなかった。

「手間かけさせやがって」

もう一度舌打ちをして、俺は校舎の中へ歩みを進めた。二度目の舌打ちは何に向けたものだったか。アイツに向けていて、俺にも向けているそんな舌打ちは、さらに俺の怒りを増幅させるだけだった。
アイツにここで待ってろと言い残した教室。もう生徒がいないはずの教室には明かりがついていた。…アイツいるなら時計でも見とけよ。
おさまるどころか教室に近づく度に沸き上がる怒りをどうしてやろう。いくらでも外道なことは思いつく。だがそれを実行に移そうとは思えねえ。
移したところであの馬鹿女は反省しやしねえんだ。エネルギーを使うだけ無駄だろう。

「オイテメェいつまで俺を…あ?」

勢い良くドアを開けて怒鳴りかけて俺の言葉が止まる。怒鳴ってやろうと思っていた相手は、机に伏して寝ていたのだ。
大声を出したのにも関わらず、起きる気配は全くねえ。規則正しい寝息が聞こえるだけだ。
呑気というか、間抜けというか。アホ丸出しのコイツを見て、怒る気も失せちまった。怒っている俺の方がバカみてえじゃねえか。
まだ起きる気配のねえ馬鹿女の前の席に腰をおろして、髪に指を通してみる。多少くすぐってえのか身をよじりはするが、起きるところまではいかないようだ。

「バァカ。俺がお前を体育館に来させねえ理由考えてさっさと帰れっつの」

コイツを体育館に来させねえのは、ただつまらねえ独占欲からだ。部の奴らに見せたくねえ、他の奴なんて見なくていい。
それと、プレースタイルを見られたくないから。いくら脳内がゆるみきったコイツでも、いい顔はしないだろう。
嫌われたくない、手放したくない。そう思ったのはコイツが初めてだった。だから。関係を壊したくなくて。
だから来んなって言ってんだよ、俺は。いい加減理解しろ、クソ女。悪態をついても、コイツの頭のゆるさは変わらねえわけで。
さっさと俺の本心に気付けよ。そんなことを思いながら、まだ規則正しく呼吸を繰り返す唇に自分の唇を寄せた。
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