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今年も七夕がやってきた。
若干雲の多い空を見上げて、今夜は天の川は見れそうにないなあと呟いた。雨は降らないだろうけど、降水確率ゼロパーセントじゃなかったしな……。
玄関先に立てかけてある笹を見て、ぐしゃぐしゃにならなければいいけど、とため息と共に思った。
ため息の原因は、私の幼馴染。緑間真太郎という名のそいつは、私の知らないうちに私の何歩も先を歩いていた。キセキの世代なんて呼ばれて、私からどんどん離れていく。
昔は一緒に歩いてたのにな。いつからこんな風においていかれるようななったんだろう。
考えてみても、いつからかなんて分からなかった。気付けば私が真太郎の何歩も後ろを歩いていた。
戻りたいとは思わないけど、やっぱり寂しいなあ。寂しさを隠すために咀嚼した今年初めてのスイカは甘ったるくてむせてしまった。
こんなに甘いと思わなかった、この時期のスイカってもっと味気ないはずなのにな。今年は暑かったからこんなに甘いんだろうか。
考えても無意味なことを考えて、自分の感情から目をそらした。あー、まだ三切れもある。四切れも食べきれないのになんでお母さんはこんなにスイカを切ったんだろう。
甘ったるいスイカの味を麦茶で流す。グラスに水滴がつくぐらいに冷えたそれはすっきりとスイカの味を流してくれた。夏はやっぱり麦茶に限るね。
なんて思ってたら、部活帰りらしい真太郎がこっちへ歩いてきた。後ろにはチームメイトらしき男の子がいる。尋常じゃないぐらい汗かいてるけど、あの人何やったの。脱水起こしそうで怖い。

「瑞希」
「お帰り真太郎。一休みしてく? スイカあるよ、食べきれないから食べていってよ」
「ああ、いただくのだよ。すまないが、コイツに何か飲むものをもらってもいいか」
「構わないよ、どうせ真太郎の無茶振りに振り回されたんでしょう? あなたもスイカ食べていって。足りなかったら切ってくるから」
「え、あ、そんなお構いなく!」

驚いたような男の子の声を背に聞きながら、私は一度キッチンへ戻った。グラスに氷と冷えた麦茶を入れて、真太郎には冷やしたおしるこを。スイカと麦茶とおしるこってすごい組み合わせだけど、まあ気にしないでおこう。多分真太郎も気にしないだろうし。
それらをお盆にのせて縁側へ行ったとき、三切れ残っていたスイカは一切れになっていた。二人とも一切れずつ食べてるみたいだ。よかった、これでスイカをどうしようか悩まなくていい。
そっとお盆をおくと、私に気付いた真太郎が振り返って少し笑った。ありがとうなのだよ。真太郎の口癖が語尾についたお礼に、私はいつもどおりどういたしまして、とだけ答えてそこに座った。

「真太郎、おしるこ作ったから食べて。真太郎のお友達も食べるならもってくるよ」
「瑞希、コイツにはいいのだよ。まだあるなら俺が全部食べる」
「流石に量が多すぎると思うよ。タッパーに移してあげるからもって帰りなよ」
「すまないな、手間をかけさせて」
「なあ、真ちゃん、俺にひどくね?」

お友達がぼやくけど、真太郎は何も言わない。いわゆる無視ってやつだ。
真太郎大人気ないよ、なんて言葉が口をつきそうになったけど、彼が気にしていないようなので言わずに内心でとどめておいた。
生温い風が吹き込んで、風鈴を鳴らす。ああ、もう夏なんだなあ。八月になったらもっと暑くなるんだろうか。
その辺に放ってあった団扇でぱたぱたと自身を扇ぎながら思った。やだなあ、これ以上暑くなるのは。

「瑞希、おしるこおいしいのだよ」
「それはよかったよかった。真太郎の誕生日に作ったおしるこがおいしくないなんて笑えないからね」
「覚えていたのか。てっきり忘れているかと思ったのだよ」
「まさか。幼馴染の誕生日を忘れるわけないじゃない」

誕生日おめでとう。
自然と口から出た言葉に、真太郎は表情をやわらかくした。横でお友達が真ちゃんそんな顔するんだ、なんて騒いでいるけど、真太郎どれだけ学校で笑わないの……。
夜に差し掛かった縁側で、私と真太郎、それから真太郎のお友達でささやかな誕生パーティをした。
真太郎、真太郎の願いが叶うといいね。七夕だし、きっと叶うよね。なんてロマンティックなことを頭の端で思いながら、私も笑った。
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