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好き、好き、好き、好き、好き。
花宮の口からはその二文字しか出ない。何回も何回も、まるで呪文のように永遠に彼の口からあふれ出す好き。
いい加減聞きすぎてゲシュタルト崩壊を起こしかけたとき、花宮の手の中でバキリという音がした。
そっちに目をやってみれば、真っ二つに折れた私のガラケー。
見事なまでに二つに折れたそれに関心さえ覚える。あ、でも携帯なくなっちゃった。新しいの買わなきゃなあ。
そんな風にただのゴミになり果てた携帯をじっと見つめていたときだった。
急に目の前の花宮が私の腕を掴んだ。携帯だったものが床に落ちて音を立てる。
それを目で追う前に、私の視界は整った花宮の顔で埋められていた。

「花宮、なに」
「なにじゃねえよ。俺言ったよな? 俺以外の男と喋んなって。言ったよな?」
「無理に決まってるじゃない。学校に来てるんだよ、私は。花宮以外と話さないなんてそんなことできるわけないじゃない」
「なぁ、なんで瑞希は俺だけを見ないんだよ。なんで瑞希は俺だけに笑わないんだよ。なんで瑞希は俺だけとメールしないんだよ」

なあ、なあ、なあ、なあ、なあ。
焦点の合わない虚ろな目が、私の目にうつる。また、始まった。
花宮は情緒不安定だ。私が彼以外の人間――いや、男か――と喋っているのを見た暁には、必ずこうなる。
愛されている、なんて自覚はない。ただ花宮が私にすがっているだけだ。ただの依存。愛なんてもの、そこには全く存在しない。
ぎちぎちと私の腕を掴んだ手に力を入れていく花宮。
流石運動部。骨が軋むような感覚がして、痛みが走る。痛い、なんて言っても花宮は手をはなさない。むしろ更に力をいれてくる。
はあ、また痕になってしまうなあ。緩められる気配のない手に、思わずため息が漏れそうになった。
けれど今ため息をついたら、花宮は更に情緒不安定になる。それが分かっているから。私は口からこぼれかけたため息を飲み込んで、正面から花宮を見据えた。

「好きなんだ、瑞希が好きなんだ。俺だけでいいだろ? 俺だけがいればいいだろ!?」
「…、そういうわけにはいかないわ。花宮だけじゃ、世界は回らない」
「俺の世界は瑞希だけで回ってる、だから瑞希の世界だって俺だけで回るだろ?」
「花宮」
「なあ、なんで俺以外と話すんだよ。原と何話してた? 楽しそうだったよなあ、楽しそうだったよなあ、なあ!?」
「痛い、離して花宮」
「嫌だ、離さねえよ。携帯を持つ手がなくなれば、俺以外と電話することもなくなるよなあ? 瑞希、腕なんかいらねえだろ? 腕がなくても俺が世話してやる、俺と二人で暮らそう」

うっとりとした目で私を見る花宮。正直に言うと不気味で仕方ない。
ただひたすら愛してるだの、好きだの、俺以外と話すな、だの。彼は飽きずに何度も私におしつける。
何度も繰り返されて、なんの重みもなくなった言葉で愛を紡がれようと、もうそれはただの言葉の羅列でしかない。意味なんて、もうとっくになくなってしまっているのだから。
何ヶ月もこの情緒不安定に付き合ってきたけれど、もう限界だ。この歪で異常な関係に、私はもう疲れ切っていた。

「花宮、別れよう」
「…は? 別れる? なんでそんな必要がある? 俺を愛しているなら、別れる必要はないだろ? 冗談やめろよ? よりにもよってそんな冗談…」
「本気よ。あなたに振り回されるのはもうたくさん。ただのクラスメートに戻りましょう?」

私がそういい終わって口をつぐみかけたその時、彼の表情が変わった。
焦点の合わない、虚ろで生気のない瞳に宿る何か。
――その何かは狂気であって。
ぞくりと背に悪寒が走った。怖い、そう本能が警鐘を鳴らす。
逃げないといけない。逃げなきゃ、私がどうなるか分からない。
未だに私の腕を掴んでいる花宮の腕を振り払おうとするけれど、どれだけ力をいれているのか全く離れようとしない。
むしろ私が振り払おうとした瞬間、更に力が入った。
下からは何かを粉砕するような音がする。視線だけそっちへやってみれば、花宮が携帯だったものを踏みにじっているのが見えた。
ディスプレイのガラスが割れ、細かい部品が散らばっている。
どこかでこんなシーン、見たことがあるなあ。なんて頭の隅で考えながら、よくもまあこんなにしたものだとため息をつきたくなった。
スマホにしようかなあ、なんてのんきに考え現実逃避をしていた私に、花宮はニッコリと綺麗な笑みを向けた。
嫌な予感がする。

「なあ、電話してたのバスケ部だろ? な、そうなんだろ? というより、バスケ部だ。俺は知ってるんだぜ? 瑞希のことなら何でも」
「花宮、ちょっと…」
「あいつら全員消したら瑞希は俺だけ見るんだろ?」
「ば、ばかなに言ってんの…!」
「俺は瑞希以外なにもいらねえ。だからいらねえもんを消すのは当然だろ?」

狂気に身を任せる彼は純粋に怖かった。
ああ、どうしよう。私は彼を止められない。
どうしたらいいのかなんて、全然わからない。
私が選択を間違えたんだと思う。でも、いつ選択を間違えたのかなんて検討もつかなくて。
ごめんなさい、本当にごめんなさい。
何に対してなのか、誰に対してなのか。そんなの全く分からずに、私はただ謝り続けるしか出来なかった。
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