赤司くんと付き合いはじめてから、初めての誕生日。赤司くんの、誕生日。
それなのに私の心は晴れなくて、むしろなんだかもやもやする。
付き合いはじめても、赤司くんは私と過ごす時間がなくて、いつもすれ違ってばかり。
バスケ部が忙しいのは今に始まったことじゃないし、仕方ないと思う。
だけど、もう少しかまってほしい。寂しい。
付き合う前の方が、話したりしていた時間が長かった気がする。
ああ、どうして。私、都合が良かっただけなのかな。
そうだとしたら、私はどうすればいいんだろう。泣けばいいの？ 怒ればいいの？
おめでたい日なのに、そんな考えがぐるぐる頭をめぐる。
今日もバスケ部は通常通り練習があって、赤司くんはもちろん練習に行ってしまった。
授業が終わってから花屋さんへ向かって、赤司くんに渡す花束を作ってもらう。
アルストロメリアとクリスマスローズ。どちらも赤司くんの誕生花。
そして、私の気持ちを代弁する花。ごめんね、赤司くん。口に出せたらいいのだけれど、私にはそんな勇気すらない。
花言葉を借りるなんて、本当に私らしくないと思うけれど、これぐらいしか気持ちを伝える手段が思い浮かばない。
ずるい、のかもしれない。でも仕方ないじゃない。
寮に戻らず、体育館の入口で赤司くんを待つ。もちろん約束なんてものはしていない。
きっと赤司くんは私がここで待ってるなんて知らない。知るわけがない。
練習中に渡すなんてことはしない。そんな公私混同したようなことはしない。しちゃいけない。
赤司くんの練習の邪魔は、絶対にしたくないもの。
マフラーと手袋と耳あてと。それから足元はタイツ。防寒対策はバッチリだ。
大丈夫、あと一時間ぐらいだから、待ってられる。
半分自分を励ましながら、寒い中赤司くんを待つ。
北風が頬を撫でる。すっかり頬も冷たくなってしまったなあ、なんて思いながらただ赤司くんがドアから出てくるのを早く早くと祈って。

――＊
何時間たっただろう。時計を持っていないから、今が何時なのか分からない。
多分ゆうに二時間は過ぎていると思う。

「赤司くん、まだ、かなあ…」

花束を手に、しゃがみこんで暖をとる。体温を逃さないように、スカートで足をおおう。
まあ、もうこんなことをしても無駄といえば無駄だけれど。
長く冷気に晒されたせいで、温度感覚なんてもうとっくになくなっていたから。
帰ってしまえば良かったのかもしれない。でもそれは出来なかった。
出来なかった、というより、したくなかった、が正しいのかもしれない。
今日は赤司くんの誕生日だから、お祝いしないうちには寮に戻れない。
気休めに息を手に吐いて、少しでも感覚が戻らないかなと、無駄なことをしてみる。
暖かさを感じないほど、指が動かないほど、冷気が私の体を侵食していた。

「瑞希、なんでここに…」
「赤司、くん」
「こんな寒い中、何をやってるんだ」
「これ、渡したくて。お誕生日おめでとう、赤司くん」

いきなり現れた赤司くんに、私は花束を差し出した。
不機嫌そうだった顔が、驚きに変わる。喜んでもらえないだろうか。
不安な中で赤司くんの顔を伺えば、赤司くんは嬉しそうな、それでも申し訳なさそうに顔を歪ませていた。
そんな顔をさせたいんじゃないの。笑って欲しいだけなの。
そんな言葉は喉から出てくれない。寒さのせいじゃないそれに、私はどうしようもなく悲しくなった。

「これだけのために、いつ終わるか分からないのに待っていたのか」
「うん。だって赤司くんの誕生日だもの」
「馬鹿か、瑞希は…！ こんな中で、そんな防寒具だけで、どれだけ待っていたんだ…！」
「分かんない。多分二時間以上、かな？」
「なんで僕に声をかけなかったんだ！」
「邪魔しちゃダメだと思って。私のせいで、練習がうまくいかなかったら困るもん」
「邪魔になるわけ無いだろう…！ こんなに手を冷たくして、君は本当に馬鹿だ」

私の手から手袋を外して、花束ごと包み込む。
冷たいはずなのに、赤司くんは私の手から手を離そうとしない。
ねえ、赤司くん。そう言おうとした矢先、赤司くんが花束を見つめて目を細めた。
優しく、慈しむような、そんな目。
その目のままで、私を見るものだからなんだか恥ずかしくなった。

「アルストロメリアと、クリスマスローズか。僕の誕生花だね」
「うん、そうだよ。誕生日だから、買ってきたの」
「君は賢いから、花言葉を知っているんだろうね」
「…うん」
「君は、本当に馬鹿だね。嬉しいが、そんな風に思わせていたことは謝るよ」

そう言って赤司くんは冷えきった私をきつく抱きしめた。
そして耳元で、僕がこんなことをするのは瑞希だけだ。僕は君が好きだよ。
そんなことを言われて、私の不安が消えないわけがないじゃない。
ありがとう、私も赤司くんが好きだよ。そう言ってから、彼の頬に軽くキスをした。
お誕生日おめでとう、赤司くん。



HappyBirthday 赤司様！

花言葉
アルストロメリア…凛々しさ
クリスマスローズ…不安を取り除いてください
双方とも12/20の誕生花です