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彼は今日もたくさんの“人”を引き連れている。
周りの人には見えない“人”を。

「今日のラッキーアイテムは、醤油差しなのだよ」
「ぶはっ! 真ちゃん持ち歩くのやめて、お腹痛い!」

私も持ち歩くの、やめてほしいな。運気が補正されると、緑間くんに不利益だから。
最下位の時はラッキーアイテム持ってなきゃまずいと思う。
でも緑間くんはもともと運気がいいから、補正しようとすると一周して良くないものを集めてしまう。
例えばこの見えない“人”達――霊、とかね。
多分、緑間くんは霊感なるものを持っていない。だから悪霊が寄り付いても気づかない。
そうなると、緑間くんには非常によくないことばかり起こる。
おは朝を見逃した日、正確に言うとその前日から、緑間くんには悪霊がついていた。
だからおは朝を見逃し、危うく死にかけたって訳だ。
私がなんとかしたから彼は生きているけれど、少しでも遅れていたらと思うとぞっとする。
よかった、あの日間にあって。
こうしてこんなことを言っている私は、緑間くんが好きなのだけど、彼は私を知らない。知るはず無い。
彼は私の存在を知ってはいけない。私も彼に知られたくない。
だから別に悲しいとか、そんな感情はない。ただ彼の役に立てたらとおもうだけで。

「今日は大丈夫みたい…。でもこれ以上は私の体がもちそうにないな…」

私が彼のために出来るのは、悪霊を遠ざけること。それが一番手っ取り早くて、安全な方法だから。
でも一番体への負担が大きい。だから私の体はもうボロボロだった。
動くだけで体の節々が痛んで、悲鳴をあげたくなるときもある。
もうそんな体になってしまったけれど、それでも彼を、緑間くんを守りたかった。
緑間くんが安全に暮らせるなら、私の身なんて安いものだと思う。だって好きなんだもの、彼が。
それでも、一度も触れられないのは嫌だなあ…。私には緑間くんに触れるだけの勇気も、資格もない。
悪霊を遠ざけ続けた私の汚れた手なんかで、緑間くんに触っていいはずがないのだから。
もし私がもっと綺麗なままだったなら。綺麗なままだったなら、彼に触れられただろうに。
いつ間違ったのか、なんて自分で分かってる。彼に恋心を抱いたところで、もうすでに私は間違えていたのだ。
知らず知らずの間に、私は歩むべき道を踏み外していた。
叶うことのない恋だと、分かっていたのに。それにもかかわらず、私は彼を好きになってしまった。
彼はそれを知らない。それでいい。緑間くんは何も間違ってなどないのだから。
天命に従い、人事を尽くした。ただそれだけ。それが少し空回りしただけなのだ。
その空回りを補正するのが私の役目で、私はそれだけのために彼の近くにいる。
でも、もう終わりだ。私の毎日の努力の成果で、緑間くんの運気は補正された。
もう不利益を被ることも、悪霊に憑れることもない。
体質を変えた、と言い換えた方がいいかもしれない。緑間くんは霊と呼ばれる類のものを寄せ付けない体質になったのだ。
ああ、喜ばしいことなのに、どうしようもなく辛い。
だって、私も近づけなくなったのだもの。
でもそれでよかったのかもしれない。私はもう消えるべきだったから。
さらさらと光の粒子に変わる体を、私は何もせずただ眺めていた。
本当なら緑間くんに触れたかった。でもそれは叶わない願いだから。
だから。緑間くんは何も知らずに生きていて。それが、私の願い。
泣きそうになってきたから顔をあげたら、偶然緑間くんが振り返った。
落し物でもしたんだろうか。なんて思っていたら、緑間くんの視線が私のものと交わった。
嘘、どうして。驚きで目をぱちくりさせる私に、緑間くんは優しく笑いかけた。

「ありがとうなのだよ」

そして、おやすみなさい。
その言葉が鼓膜を震わせ、私はこらえていた涙をこぼしてしまった。
こちらこそ、ありがとう。
そう言おうとしたけれど、言葉は口から出るより先に、喉の奥で消えてしまった。
彼に手を伸ばすこともできず、あの優しい笑みを最後の記憶にして、私の視界はフェードアウトした。
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