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誰も来ない図書室で、私は赤司と向かい合って座っていた。
お互いに何も言わない。口を開かず、ただ本を読むだけ。
時折赤司が私の顔をちらりと伺ってくるけど、知らないふりをつき通そうと思う。
だって、何を言っていいか分からないもの。
私の顔見て何、なんて聞こうものなら、きっと赤司の中で私は自意識過剰な奴になってしまう。そんなの、嫌だし。

「岡崎」
「何、赤司。私に用?」
「いや、用というわけではないが、時間はいいのか。そろそろ六時を過ぎるが」

赤司の言葉で、初めて時計に目をやった。
ああ、本当だ。もうそんな時間なのか。通りで本が読みにくいと思った。
私が驚いたように時計を見つめていたかなのか、赤司はクスクスと小さく笑い声を漏らした。
私が赤司に視線を向けると、彼は笑うのをやめて口を開いた。

「何度も時間を言おうと思ったんだけど、君があまりに集中しているものだから言い出せなくてね。すまない」
「気にしないで。こっちこそ気がつかなくてごめん」
「お互い様、というところかな。さ、帰ろうか。今日は冷え込むからね。早く帰った方がいいだろう」

赤司は本を閉じて立ち上がった。学校指定の鞄に、図書室で借りた本を入れて、変わりにマフラーを取り出す。
赤司の髪より深い赤のそれを、彼はぐるぐると首に巻き始めた。
それを見ながら、私は内心で赤司に謝っていた。
ごめん、赤司。本当は君の視線に気が付いていたの。でも、知らないふりをしてしまった。ごめんね。
赤司は私がそんなことを思っていることを全く知らない。だから私が身支度を始めないことについて小さく眉をよせ、こういうのだ。

「続きが読みたいのは分かるけど、外の寒さを考えてくれ。君に風邪を引かせるわけにいかないんだ」
「どうして? 私が風邪を引いても赤司に何か不都合なことはないでしょう?」

検討外れな言葉だけど、私はきちんと返答をして立ち上がった。
バスケで未来が見えても、人の心までは見透かせないらしい。それもそうか、彼は優れた人だけど人間なのだから。
栞を挟んで本を閉じる。ぱたんと小さな音と共に、古い本特有の埃っぽい、でも懐かしいにおいが鼻を掠めた。
本をしまおうと鞄に顔を向けたとき、急に体を包み込まれた。
温かさとともに、赤司の匂いがする。私は状況をよく理解できなかった。

「君が鈍い事は知っていたけれど、ここまでだとは思わなかったよ。僕の目測外れだ」
「あ、赤司…?」
「君が僕をどんな風に見ているのか知らないけれど、側に置きたいと思わない限り、僕はこんなに遅くまで君に付き合っていないよ」
「は、え、え…?」
「…はあ。ここまで言っても分からないかい。仕方ないね、一度しか言わないからよく聞いておいて」

僕は君が好きだ。

鼓膜を震わせた言葉に、私の顔が熱くなる。
どう、答えればいいのだろう。
今まで告白なんかされたことがないから、こんな時どうしていいのかわからない。
返事をするべきなのだろうけれど、うまく言葉を並べられない。
活字ばかり追っているくせに、私の頭はいざというときに役に立たないのだ。
ああ、どうしよう。
私が脳内でああでもない、こうでもないと思考を繰り返しているうちに、赤司は私を抱きしめていた腕を解いていた。

「はは、真っ赤だよ」

寒いから、赤くなっただけ。
今だけは、それで誤魔化されてください。


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