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思い描いた想像は、ぐしゃりと丸めてゴミ箱へ。現実と理想は間逆だ。
もっと女らしくなれたら、なんて何度思ったことか。思うたび女らしくない自分に嫌気が差して気分が沈む。それの繰り返しだ。
無生産な毎日を送って意味なんかあるのか。そんなことばかり考える。
配られた進路希望は白紙のまま。志望校なんてないし、夢もない。特技があるわけでもないし、長所があるわけでもない。
もう夏休みなのに進路をなにも考えてないのはやばいなあ。あせりなんて全くないんだけど、焦れ焦れという担任の言葉を思い出して言葉だけ焦ってみる。
焦燥、なんてなにから生まれるんだろう。焦ってもいいことないのにね。窓から吹き込んだ生温い風が蝉の声まで運び込んで今が夏なのだと再認識させる。
三者面談、どうしようかなあ。成績がいいわけでもないし、部活でだって結果を残していない。何も評価するところなんてないじゃない。
ホント、困った困った。笠松ぐらい勉強でも部活ででも結果を残していたらこんなことで悩まなくていいのに。推薦、もらえたりするんだろうな、羨ましい。
クーラーのついていない教室でそんなことばかりを思っていても仕方ない。そろそろ帰ろう。帰りにコンビニでアイスを買おう。今日みたいな日にはアイスを食べるに限る。
そうと決まれば膳は急げだ。荷物を持ち上げて、誰もいない校内を歩く。外靴に履き替えて日傘を差して準備完了。この差すような日の中を帰ろうか。
校門まで歩くだけでもそれなりに距離があるため、私の額にはうっすらと汗がにじみ始めていた。あー、熱い。
夏によく感じる体のだるさを感じつつ足を動かしていると、私の足元にころころとバスケットボールが転がってきた。拾い上げて持ち主を見つけようと辺りをきょろきょろしたけれど持ち主らしき人影はない。……これが夏恒例の心霊現象って奴か。
そんな馬鹿みたいなことを少しだけ真面目に考えてから、ため息をついて行き先を変える。もちろん行き先は体育館。ボールを拾ってしまったからには仕方ない、届けに行こうか。
無駄な寄り道になるなあ、なんて思いながら到着した体育館は丁度休憩に入ったようでいつも聞こえるドリブルの音は聞こえなかった。

「ちょっと笠松」
「岡崎、か? どうしたんだよ、こ、ここになんか用か?」
「いや、ボール拾ったから届けに来た」
「あ、それ俺のボール! どこにあったんスか!?」

……目の前で驚いた顔をする人物は巷で噂の黄瀬涼太じゃなかろうか。さすがモデルなだけあって顔小さいしスタイルいい。なるほど、これはもてるわけだ。
一人で納得してからボールを渡せば黄瀬涼太は驚いたような顔で私を見た。何でそんな目で見られなきゃならないんだ、私はそんなにおかしなことをしたんだろうか。

「俺になんかお礼でどこかに付き合って、とか言わないんスか」
「別に? 正直どこも行きたくないし、見返りを求めて届けに来たわけじゃないしね。ただ拾ったから届けに来ただけ。ボールないと困る人、絶対出てくるでしょ」
「先輩めっちゃいい人っスね! 名前教えてくださいっス! あ、出来ればメアドとか! 俺お礼がしたいんスよー!」
「笠松に聞けば全部分かるよ、同じクラスでそこそこ仲いい……と思うし」
「先輩に直接聞くことにいみがあるんスよ! 俺は黄瀬涼太っス! これでも一応モデルやってるんスよ?」
「あー、うん知ってるかな。私は岡崎瑞希。笠松のクラスの図書委員ね」
「あ、ちょっと見たことあるっスよ! カウンターで紙飛行機折ってたっスよね!」

見られてたのか。誰も見てないと思ってたんだけどな。ちなみに紙飛行機にしてたのは英語のテストである。もちろん赤点。見なかったことにしてやった。
まあそうだけど、と答えればやっぱり、と黄瀬涼太は笑った。なんか、すっごいまぶしい笑顔だ。サングラスがほしい。
へんな思考をしていると、黄瀬涼太が私の鞄からはみ出す進路希望書に気付いたようで私に問う。

「岡崎先輩、進路希望書真っ白じゃないっスか」
「まあね。なんもやりたいこととかないし」
「進路、なんも決まってないんスか?」
「そうなるね。まあ何とかなるよ、多分」
「ちょっと貸してもらっていいっスか?」

私が返事もしないうちに進路希望書は黄瀬涼太の手の中にあった。何をするつもりなんだろう。紙飛行機にするんだろうか。まあ別に紙飛行機にしてくれて構わないけど。
部室に走っていく彼の背中に向かって笠松の怒鳴り声。あの笠松に怒鳴られてもピンピンしてる黄瀬はなかなかに大物なんじゃないかと思う。
ホント何するんだろう。シュレッダーにでもかけてくれたのかな、なんて思ってたら進路希望書を手にした黄瀬が走ってきた。シュレッダーにかけてくれたんじゃなかったようだ。
これで提出すればいいっスよ、なんていって渡された進路希望書には思わず目を疑ってしまうような言葉が並んでいた。

「……これは何かの冗談ですか」
「そんなわけないっスよ! 俺本気っスからね?」
「これ消そうにもボールペンじゃない……。どうしてくれるのこれ……」

私がそういっても、彼はにっこりと素敵な笑顔を浮かべたまま。こんなにいらだつ笑顔をこれまで見たことがない。今すぐにでも殴りたいんだけど。
希望する進路の欄に書かれていたのは黄瀬涼太のお嫁さん、という言葉。こんなの、小学生でも書かない。これを本気だというのだから、このモデルさんは少し頭が弱いのかもしれない。いや、少しどころじゃないか。
こんなもの出したら私が怒られる。どうしよう、と頭を抱える私に黄瀬はやっぱり綺麗な笑顔で言う。

「俺、バスケ選手とモデルになるつもりなんスよ。だから岡崎先輩を十分守れる男にはなれると思うんスけど、ダメっスか?」

……どうしよう、なんか今のきゅんと来た。


(実は俺先輩のこと、ずっと前から知ってるんスよね)
(ただ意識してもらえてなかったみたいなんで、ちょっと今日頑張っただけっス)
(俺、先輩のこと、好きっスよマジで)


――
めいちゃんのリクエストで「黄瀬の甘い話」でした。
全然甘くない……。しかも前のほう誰も登場していない……これは夢だといえるのか……?
リクエストに沿えていなかったらごめんなさい。修正や持ち帰りはめいちゃんのみ可。
リクエストありがとうございました!
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テーマ「人外ファンタジー」
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