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カフェテリアで待つ瑞希のために。俺は魔法瓶に甘めのミルクティーを入れて、男子寮の部屋を出た。
春になったとはいえ、まだ秋田の空気は冷たい。関西のほうでは桜が開花したとニュースが告げていたけれど、東北が、もっと言うなら秋田の桜が開花するのはいつになるだろう。
どこかで聞いた話によると、桜前線というのは幼児が歩くぐらいの速度で北上するらしい。桜前線が小さな足を動かして東北へたどり着くには、まだまだ時間がかかりそうだ。
自販機に一番近い席で頬杖をついて、鼻歌を歌いながら瑞希は足をぶらぶら前後に揺らしていた。先月より薄着になった制服は、まだ寒いながらも確実に春が訪れているのだと言っているようだった。

「瑞希、遅くなってごめん。寒くなかったかい?」
「うん、大丈夫。今日はあったかいし」

にこりと笑った瑞希の頬と鼻は少し赤くなっていた。すぐにばれる嘘をついたって仕方ないじゃないか。
俺は自分のマフラーを外して、細い瑞希の首に巻いてあげた。多分冷たくはないはず。
俺がマフラーを巻き終わると、瑞希は氷室君が寒いでしょとマフラーを外そうとしたけど、俺が制止した。
部活で鍛えてるからこれぐらい寒くもなんともないし、それに瑞希が風邪でもひいたら困る。熱で苦しむ姿なんて見たくないからね。
そう言うと、瑞希は頬を薄く染めてありがとうと笑った。その笑顔があまりにも綺麗で、かわいくて。俺まで釣られて笑顔になった。

「あ、これミルクティー。瑞希好きだろ?」
「うん、好き! ありがとう! 私氷室君のミルクティー大好きだよ」
「瑞希の好みに合わせて作ってるからね。そう言ってもらえて何よりだよ」

持ってきたマグカップにミルクティーを注いで、瑞希の前においた。また笑ってありがとうと言ってから、瑞希は両手でマグカップを持ち上げた。
俺は自販機でコーヒーを買って、瑞希の前の椅子に座った。息を吹きかけてミルクティーを冷ます瑞希が無性に愛おしく感じた。
別に付き合ってるわけじゃない。瑞希は俺に異性としての好意を抱いているわけじゃないだろう。多分やさしいクラスメートで、良き友人。俺の位置づけはそんなものだろう。
でも俺はそんな曖昧な気持ちを抱いてるわけじゃない。異性として、瑞希が好きだ。そうじゃなかったら、まだ寒い中瑞希の好みに合わせたミルクティーを持って、外に出るわけないじゃないか。俺はそんなに優しい人間じゃないよ。
俺の行動の根底にあるのは下心。それだけだ。瑞希を俺にひきつけるためなら、多少汚い手だって使う。俺はそういう汚い人間だ。まあ、そんなことをしていても俺に春は来そうにないけど。

「氷室君は、大学どうするの? アメリカで進学するの?」
「んー、まだ考えてないんだ。大学にいる間はバスケやりたいと思ってるし、アメリカで進学してもいいと思うんだけどね。でもそうしたら瑞希に会えないから、もう少し考えようと思ってるんだ」
「……氷室君は、私がアメリカについていったら邪魔?」
「まさか。そんなことないよ! 俺は嬉しいよ、瑞希と一緒にいたいし」
「ホント? なら、英語勉強する!」

 私も氷室君と一緒にいたいから。
そういった名前の顔には照れたような笑みが浮かんでいた。マグカップを支える両手に少し力が入ったように見えた。
前言撤回、どうやら俺にも春が来そうな予感。まだ確実に、ってわけではないけど、瑞希の恋人として、瑞希の隣を歩く日は遠くなさそうだ。


For your innocent heart.
(下心で足跡をつけたのは、ほかでもない俺で)


蜃気楼のメイちゃんとの相互記念の氷室さん。
微甘のリクエストだったけど、こんな感じでよかったんだろうか…。
なんか氷室さんが黒いというか、なんと言うか…。
しかも遅くなってごめん…!
なにかここ直して! とかあったら言ってね、すぐ直します…!
メイちゃん、これからもよろしくね!
お持ち帰りはメイちゃんのみでお願いします。
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テーマ「人外ファンタジー」
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