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――ずっと前から好きだったの。
夕焼けの真っ赤な光が差し込む昇降口。生徒の少ないそこでいつもヘラヘラ笑っているリリィの真剣そのものな声に引き止められて振り返れば、突然告白っつー爆弾を落とされた。
いきなりの言葉に戸惑って、何度か目を瞬かせた。好きな奴から告白されたら戸惑うのも仕方ない話だろ? ずっと前から好き、だったんだし。
返事をしようと口を開きかけたとき、リリィがぱん、っと両手を合わせた。それにも瞬きを繰り返すと、申し訳なさそうな声でこう言われた。

「あのね、これ予行練習なんだ。明日、告白するから」
「……あのなあ……。本気にするだろ」

危なかった。返事してたら馬鹿にされて恥をかくところだった。絶対リリィは馬鹿にしてエレンやコニーに言いふらすだろうしな。学年中に俺の早とちりが知られるなんてなんていう公開処刑だよ……。
そう思いながら、俺の内心は複雑で。告白されて喜んだのも、嬉しかったのも事実だ。練習相手に俺を選んでくれたことも、どこかで嬉しいと思ってる。
それでも、予行練習だから俺以外の男に明日告白するんだろ? リリィが俺以外の誰かと付き合う手助けを結果的にしているのは嬉しくもなんともない。
ここで本命は誰だよ、なんて聞けたら良かったのに俺はそれすら聞けなくて。もしエレンなんて答えられたら俺は絶対に立ち直れないし、エレンを殴りに行ってただろう。アイツに負けるのだけはどうも納得できねえ。……他の奴でも納得はできねえけど、アイツよりはまだマシだ。
明日からどんな顔してリリィに会えばいいんだよ。今だって必死になんでもないような顔してるけど、気を抜けば情けない顔を晒しそうだしな。
コイツに告白されるやつはどんなやつなんだろうな。無意識のうちに考えていて、慌てて考えるのをやめた。こんなことしたらますます自分が惨めに思えてくる。

「どっか寄ろうぜ、腹減った」
「昼あれだけ食べてもうお腹すいたの!?」
「成長期なんだから仕方ねえだろ、ほら行くぞ」

習慣みてえになってるそのへんの寄り道も今日で最後か。告白が成功したら、リリィの隣に立つのは俺じゃなくて彼氏になるし。彼氏がいるのに俺と並んで歩いてたら問題だろ。
俺ならコイツのワガママだってきいてやれるのに。リリィは勘違いしてるだろうが、世の男は俺みてえにワガママきいてくれねえんだぞ。俺がお前のワガママきいてやってんのは、お前のことが好きだから以外の何でもないんだぞわかってんのかよ。
……わかってねえから、リリィは俺以外の男に告白するんだろうけど。いい加減、気づけばいいのに。この鈍感ワガママ女が。お前と付き合える男なんて俺ぐらいのもんなのによ。こんな優良物件見逃すなんて、コイツの目は節穴かよ。
悪態をつきながら、明日になればコイツの本命がわかっちまうことを辛く、悲しく、怖いと思っていた。リリィが俺で予行練習なんてしなかったらこんな気持ちにはならなかったのに。リリィはこの上ないアホだ。
なんかいらいらしてきたし、コイツになんか奢らせてやろう。そんな横暴なことを考えながら俺は現実から目をそらした。

――*
朝練を済ませて、いつもは見ねえ占いをスマホで見て一人占い結果を呪う。なんでリリィが告白するって言った日に限ってアイツの恋愛運良好なんだよ。外れればいいのに。そんなことを本気で思う俺はこの上なく嫌な奴だ。
授業なんて頭に入らず、右から左へ抜けていく。あー、マジでやべえ。思った以上にリリィは俺の中で大きな面積を占めているらしい。
今日は部活もサボってやる、こんな精神状態で部活なんてできる気がしねえ。マルコに部活を休むことを告げれば、何かを察したのかなにも聞かずにわかったよといつものように笑った。マルコの気遣いは本当にありがたい。
また明日な。カバンを持って廊下へ出れば、リュックを背負ったリリィがいつものように非常扉にもたれかかっていた。告白しにいくんじゃねえのかよ。
リリィの顔を見たくなくて、気付かないフリをして素通りしようとするとリリィに手首を掴まれた。
仕方なく立ち止まって振り返ると、リリィは赤い顔をして困ったように眉尻を下げていた。

「なんだよ」
「その、あのね、嘘つきでごめん」
「は? いきなりなに意味不明なこと言ってんだよ」
「昨日の予行練習っての、本当で嘘なの」
「……は? 意味分かんねえんだけど」
「察してよ! ずっと前から、私はジャンのことが好きなの!」

いきなり顔を上げて、叫ぶように俺へと発せられた言葉。真っ赤な顔に、震えた声。昨日の予行練習とは全くの別物。本気なのが見て取れた。
一瞬呆気に取られた俺だったが、徐々に熱くなるほほと早くなる鼓動に初めてこれが現実なんだと実感した。
……やべえ、嬉しい。にやけそうになるのを我慢して、余裕なフリをしながらこちらこそとだけ絞り出した。
その瞬間、泣きそうな顔で笑うもんだから、こっちまで釣られて笑みがこぼれた。杞憂だったことにひどく安心している自分には気付かないフリをしておこう。
昨日と同じ夕焼けの中、二人乗りをした自転車。リリィがくっついてる部分から俺の鼓動が伝わればいいのに。そう思いながら俺は緩んだ頬のまま自転車を力いっぱい漕いだ。

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ナギさんと咲さんのリクエストで「告白予行練習をジャン視点」でした。
大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした…!
うまく告白予行練習になっているかはわかりませんが楽しんでただけたら幸いです…!
持ち帰りや手直し等はナギさん、咲さんのみで。
リクエストありがとうございました!
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テーマ「人外ファンタジー」
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