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今日もリヴァイは理不尽だった。リヴァイの形容詞は理不尽、それに尽きると思う。
補佐官だからって、私に理不尽なこと言ってこき使っていいわけじゃないんだから。まあそういい返せない自分が情けないけど。
肩こったなあ。そんなことを思いながら、廊下を歩いていると窓の外に人影が見えた。一人で膝を抱え込んで座る、男の子。
広いけれど、今はどこか頼りなさげに見えるその背中に見覚えがあった。最近入ってきた子だ。成績よかったのに。調査兵団志望するなんて変わった子だなあなんて思ったっけ。まあ今年はそんな子が多いけど。
そろそろ気温が下がってくるのに、どうして外になんかいるんだろう。自室に戻ればいいのに。私みたいに仕事が今終わったわけじゃないだろうし。
一応私の部下だし、放っておくわけにはいかない。体冷やして体調崩したら大変だし。
ちょっとお行儀が悪いけど、窓を乗り越えて彼のほうへ近づく。月明かりに照らされた彼の顔は何かを思い悩んでいるようだった。
見てみぬフリしなくて正解だったかも。この時期に悩んでるのを放っておいたら、後々辛くなっちゃうし。

「ね、どうしたの? 悩み事?」
「え、あ、リリィ兵士長補佐官……!」
「私でよかったら話し聞くよ? 話聞くって言っても、私だったら言いにくいかもしれないけど……」

苦笑すると、とんでもないと首を振る彼。首が飛んでいっちゃいそうなぐらい勢いがいいもんだから、私は笑いそうになってしまった。笑っちゃいけないんだけどね。
彼に名前を聞くと、ジャン・キルシュタインですという、礼儀正しい返答。ああ、この子がジャン君なのか。名前まで把握してなかったから、今顔と名前が一致した。我ながら申し訳ない。
ジャン君は私のことは知ってるみたいだし、自己紹介はなくても大丈夫だろう。まあ、リヴァイの近くにいるのに名前が知られていないってことはないだろう。あのリヴァイの近くにいれば、嫌でも目立つし。

「ジャン君、自己紹介をしてもらったすぐ後だけど、悩んでること言ってごらん? 言いにくいことなら、ここではっきり迷惑だって言ってくれて構わない。人に言いにくいことは誰にでもあるんだから。君が所属している場所も場所だからね」
「いえ、一人で悩んでいてもどうしようもないですから……。聞いてもらえますか」

もちろん、と笑ってあげればジャン君は少し眉尻を下げた。年相応の顔はどこか愛嬌があるように思えて、ちょっと可愛かった。
私から視線を外して、遠くを眺めながらぽつりぽつりと私に話してくれたことは、まだ年端もいかない少年が経験するにはあまりに酷なことだった。
マルコ君という友達が誰にも知られないような場所で死んでしまっていたこと。それを見つけたのがジャン君だったこと。マルコ君はあのとき死なずに兵の先頭に立って、指揮をする才能がありそれを発揮すべきだったこと。彼の遺志をついで指揮をしようと思うけれど、自分なんかでいいのかということ。
淡々と言って冷静さを装ってはいるけれど、言葉の端には隠しきれない辛さや悲しさが垣間見える。
本当は、冷静でなんていられないんだろう。でも止まってはいられないから、平気なふりをしているだけ。
ああ、この子はなんて辛いことを自分に課しているんだろう。自分で自分が悲しむことを出来ないようにしている。そんなことしたって、辛いのは自分なのに。

「俺は、本当にここにいていいんですかね。友達一人助けられなかったのに、指揮なんてできるわけないです」
「私はそうは思わないよ」
「え? でも、俺は…」
「君は自分を過小評価しすぎだよ。私はジャン君は指揮官に向いてると思う。ちゃんと兵の心理を把握してるし、自分だって大切な人を失って、それがどれだけ辛く悲しいものかを知ってる。私もね、大切な人を失うまで、上手く指揮なんてできなかったんだよ。笑っちゃうでしょ? 兵士長補佐官なのにだよ?」

懐かしい日々。痛みを知らないあの日に戻りたいとは思うけれど、痛みを伴うから今の私がここにいる。やっぱりね、あの痛みは私になくてはならなかったものなんだと、長い時間がたってしまった今だから思う。
ジャン君は、まだ痛みを噛み砕けていないだけ。マルコ君が死んでしまったのは辛いし、悲しいし、痛いものだと思う。
けれど。いつかそれを懐かしく思える日が来る。その時、ジャン君はきっと優秀な指揮官になっているだろう。
もちろん、死んでしまった仲間が死んでよかったと思っているわけじゃない。出来るなら共に戦いたかったと思うし、助けられなかったのは悔しい。
でも今たっていられるのは、生きていられるのは失ってしまった存在のおかけだから。
目には見えないけれど、私の大切な人も、ジャン君はマルコ君が傍にいる。だから、前に進める。

「ジャン君、今は完璧にならなくていいんだよ。…ううん、人間生きてる間で完璧にはなれないんだよ。だから未完成なまま、進んでいけばいいの」
「未完成なまま、ですか」
「そう。未完成なまま。でもいつか自分はよくやった、そう思える時が来る。その時に、初めて完璧になれるんじゃない? それが死ぬ間際かもしれないし、もしかしたらこないかもしれない。でもそれはジャン君が決めることだから、私にはどうとも言えないんだけどね」
「リリィ兵士長補佐官は、」
「ん?」
「自分を完璧だとは思わないんですか」
「当たり前だよ。まだまだ私はひよっこだもの。きっとリヴァイだって自分が完璧だとは思ってないよ。人間、完璧だと思ったとき成長は止まっちゃうもの」

私がそういえば、ジャン君は少し驚いた顔をしてから、そうですねと笑った。
暗い顔をしていないから少しは悩みは解決しただろうか。何をしてあげられたわけでもないけど、それでもジャン君の悩みが少しでも解決できたならそれでいいのだけれど。
気温も下がってきたし、そろそろ部屋へ返さないと。私もまだやらなきゃいけないことが残ってるし。
遠くでリリィ、と私を呼ぶリヴァイの声がした。ああ、また仕事増えるかもしれないなあ。勘弁してよ、そう思いながら小さくため息をつくとジャン君が立ち上がって私に頭を下げた。

「リリィ兵士長補佐官、ありがとうございました。話を聞いていただけて楽になりました。明日から、頑張ります」
「そっか、ならよかった!」
「それで、あの……」
「ん?」
「その、また悩んだときは話し聞いてもらってもいいですか……?」
「うん、私でいいなら。そんなにアドバイスとかも出来ないけどさ」

そう返答すると、ジャン君はそんなことないですと、また首がねじ切れそうなぐらい勢いよく首を横に振った。
早く部屋に帰りなよ。それだけ言い残して、私はまた窓から建物内に入った。これリヴァイにばれたらはしたないって怒られるんだろうなあ。
なんてのんきに思いながら、リヴァイの機嫌を損ねないうちに彼の元へ向かおうと足を動かし始めたのだった。


――
image…未完成交響曲/ONE OK ROCK
えみさんのリクエストで「悩んでるジャンに上司のヒロインが語りかける」でした。
これは語りかける…になるんでしょうか、微妙なラインですよね…。
語りかけるって難しいです…、もっと精進します…!
手直しや持ち帰りはえみさんのみ可です!
リクエストありがとうございました!
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