QLOOKアクセス解析If I were you, | ナノ
俺にとってアイツは、特別以外の何でもない。幼馴染みであり、初恋の相手だから。
だからこそ、辛かった。アイツが変わってしまっていたのは。

If I were you,I would not forget me.

いつも通り、今日も訓練が始まる。まだ今日は立体起動訓練からだからマシか、飯の前は座学だしな。
立体起動直後のあの浮遊感が体に残った状態での食事は地獄だ。これは何回やっても慣れない。つか、慣れるはずがねえ。
今日も早く訓練を終わらせてやる。そう決心したところに教官がやって来た。

「立体起動訓練の前に、一つ知らせがある。今日から諸君らに混ざって、訓練をすることになった者がいる」

教官の言葉の後に、どこからかワイヤーの巻取られる音がして、俺らの頭上を誰かが越えていった。教官の横で軽い音を立てて着地したのは、昨日の黒髪――エレルアだった。
ちょっと待て、エレルアが立体起動だと? あいつにそんな身体能力はなかったはずだぞ。何もないところで転んでいたような奴が、立体起動なんかできるわけねえだろ。
唖然とする俺に構わず、エレルアは振り向いてただ俺らを見てていた。その目には感情なんか浮かんでいない。ただ無表情だった。
教官に自己紹介をするように求められ、エレルアはめんどくさそうに口を開いた。

「エレルア・ハッテンブルク。ちょっとした事情で今日からここで訓練することになった、よろしく」

よろしくする気なんてさらさらないその様子に、コニーがうわ…と明らかに嫌そうな顔をした。おいおい、露骨に出しすぎだろ。注意しようと思ったが、なんせ今は教官の目の前だ。下手に今注意しねえほうがいいだろう。
そう判断して前を向いていると、教官が俺を呼んだ。短く返事をすれば、エレルアの訓練は基本的に俺に任せるという俺にとっての爆弾発言。
は? 俺がエレルアの訓練相手…? 願ったり叶ったりだ、ずっとエレルアを探してたんだ、嬉しくないはずがない。
承知しましたと返答すれば、教官は満足したのか今日の訓練の内容を話し始める。どうやら今日は立体機動装置を使った鬼ごっこをするようだ。最後まで逃げ切ったものにはご褒美があるとかないとか。
食いもんを想像したのか、サシャが目を輝かせている。心なしかよだれが垂れてる気がするが、気のせいだということにしておく。
教官に背中を押され、エレルアがこちらへ歩いてくる。ジャン・キルシュタインという名前に覚えがあるからだろう、エレルアは一直線に俺の方へ歩いてくる。
俺の横に立ったエレルアは前を向いたまま口を開いた。

「…ジャン・キルシュタインは、お前か」
「お前かって、そりゃねえだろ。五年ぶりだな、エレルア。ずっと探してたんだぞ、このバーカ」
「お前に馬鹿呼ばわりされる筋合いはない。それと、勘違いしているようだな。私はお前と面識はない。私が知っているジャン・キルシュタインはお前じゃない」

抑揚のない声で、エレルアはそう吐き捨てた。エレルアの目は俺を見ようとしない。ずっと前を見ている。
…なんなんだよ、エレルアはどうしたっていうんだよ。あんなに俺と一緒だったのに、お前は俺が分からないのか?
俺が成長してて分からない? …いや、そんなことはねえ。俺はさっき、五年ぶりだなと声を掛けた。こいつの知っているジャン・キルシュタインは俺だけのはず。もし俺の他にジャン・キルシュタインを知っていても、五年ぶりに会うジャン・キルシュタインは俺一人のはず。
なら、なんで分からないんだよ。まるで別人のようなエレルアに、俺は困惑しか出来ずにいる。
今度こそ、守るって決めたのに。決めたのに、俺を俺と認識しねえなら守れねえじゃねえかよ。あの日の償いが、できねえじゃねえかよ。
混乱している中でぐるぐると同じような事を考えている俺の耳に、教官の指示なんて全く聞こえなかった。
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