QLOOKアクセス解析If I were you, | ナノ
疲れたときに眠ると、昔の夢を見ることがある。俺がまだまだガキで、幼馴染みと過ごす日常が続くものだと信じて疑わなかった、あの平和な毎日を。
エレルア。そう呼びかければ、綺麗に編まれたおさげを揺らして笑うエレルア。
ああ、可愛いなあ。なんて思って手を伸ばしたところで目が覚める。今日もそうだ、触れられそうで触れられない。触れられそうなだけ、触れられないより質がわりい。目をそらしたい現実を突き付けられているような気がして、胸におもりがついたような息苦しさに襲われる。それはもう、お決まりのことになっていた。

「畜生…。夢ぐらい、俺の思い通りになれよ」

悪態をついたところで、誰も返答しない。当然だ、爆睡してやがるからなコイツら。
まだ就寝時間からそんなにたってねえようだ。月が空の高い位置で輝いている。
夜は始まったばかりだ、だが寝れる気がしねえ。あんな夢見てすぐ寝れる方がおかしいっつの。
少し外に出て眠気がくるまで星でも見とくか。他にやることもねえし、やることは限られていた。
薄手の上着を手にし、同室の奴らを起こさないように部屋を後にする。コニーの奴、腹出して寝てやがるが大丈夫か? 腹壊したとか言ったら洒落にならねえぞ。
そんなことを思いながら、足音を立てないように宿舎の外へ出る。流石に夜なだけあって物音一つしねえ。昼間はあんなにうるせえのに、夜だけは昔と変わらず静かで、なんとなく笑いそうになった。
宿舎の角の死角になりそうな場所に座り込んで空を見上げれば、雲一つない夜空にはきらきらと無数の星が輝いている。
巨人に生活が脅かされているのに、星空はずっと変わらない。ああ、今頃エレルアはこの夜空を見れているんだろうか。
無意識にエレルアのことを思いだして、泣きそうになった。あの日の俺がしっかりしていれば、きっと守れただろうあいつのことを思うと、俺はどうしようもない辛さと悲しさに襲われる。

『待ってよジャン、歩くの早いよ!』
『ジャン、見て見て、パン焼いたんだよ! 今日流星群見るとき一緒に食べようよ!』
『ジャン、ジャンは私を守ってくれるんでしょ? ジャンは私の王子様ね!』

一緒に買い出しに行った帰り、俺についてこれなくて不機嫌そうな顔をしたエレルア。嬉しそうにあたたかいパンを俺に見せて、流星群を楽しみにするエレルア。いじめられていたエレルアを守ってやった時、笑って俺を王子様だと言ったエレルア。
もう何年も前の出来事なのに、鮮明に思い出せる。どれも大切な俺とエレルアの思い出。記憶の中のエレルアと俺はただ笑っていた。
思い出したくない、思い出したくなんかない。一番大切な存在を守れなかった俺は、王子様でもなんでもねえ。ただの弱い人間だ。
今ならエレルアを守れるか?
自分に問いかけてみるが、答えなんて見えている。いつになっても、俺はエレルアを守れない。
誰よりも近くで守ってきたはずなのに。一番守らねえといけねえ時に、俺はエレルアを守れなかった。

『あ、流れたよ! お願いしなきゃ!』
『どうせ迷信だろ』
『違うもん! 私ね、ジャンとずっと一緒にいられますようにってお願いするの!』

流星群を二人で見たあの日。エレルアは笑って言った。願い事言ったら意味ねえだろ、なんて呆れて言ったのは懐かしい。
あの日もこんなふうに雲一つねえ綺麗な夜空だったよな。あの日、呆れてるように見せてたけどな、本当は嬉しかったんだぞ。
もし叶うのなら。夜空を見上げて、柄にもなく考える。もし叶うのなら、またエレルアの隣にいたい。また、会いたい。
そう願ったとき、一筋の星が流れた。すぐに消えてはしまったが確かに。
このとなりにエレルアがいたら。そんなことを考えてから自嘲した。そう思うだけ自分が惨めに思える。
それでも。願いが叶うなんて確証はねえけど叶うなら。僅かな可能性にすがるのはいけないことか?
泣いてしまいそうになるのを押さえ込んで、膝の間に顔を埋めた。なあ、エレルア。今度俺がお前と会えたら、また昔みてえに笑顔で俺の名前を呼んでくれるか? 今度はちゃんと守るからよ。

そんな俺の淡い願いが叶うのは、そう遠くない未来だということを、俺はまだ知らない。


――
ナン太さんのリクエストで「昔を回想して切ない気分になるジャン」でした。
これは切ない気分になっているのか微妙ですね、悔やんでるようにしか見えないのは私だけですか…?
時間軸は一応夢主が104期生と一緒に訓練する少し前になります。
イメージに沿えていなかったら申し訳ありません…!
手直し、持ち帰り等はナン太さんのみ可!
リクエストありがとうございました!
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