QLOOKアクセス解析If I were you, | ナノ
誰だろう。腕を掴まれたとき、何故だか懐かしく感じて戸惑ってしまった。
私の知り合いだったとしても、私は分からない。
私には、記憶が無いのだから。

If I had memory,I might change something.

食事をとりおわって、ハンジさんのいる部屋へ戻る。今は分隊長と呼んだ方がいいのかもしれないが、まあいい。
大しておなかにたまらない食事。ただ必要だから食べるだけだ。空腹感なんて、久しく感じていない。
食べなかったらハンジさんとリヴァイさんに叱られるし。私を助けてくれたのはこの二人だから。この二人に心配はかけたくない。

「あ、エレルア帰ってきた?」
「はい、帰りました。お話の続きですが…」
「ああ、そうそう、巨人の話!」

ハンジさんはさっと何かを、巨人について書かれた書類で隠した。私に見られると都合が悪い書類なんだろうか。関係者以外には見られてはいけない書類、だったのかもしれない。
ノックしてから入ったけれど、もう少し時間をおいてから入った方がよかったのかもしれない。
歩み寄らずにハンジさんが私を呼ぶのを待つ。今日は巨人について、なにを話してもらえるのだろう。
ハンジさんの巨人の話は面白い。私はハンジさんの話を聴くのが好きだ。
私の記憶や人格がごっそりなくなっているからかもしれない。五年前にリヴァイさんに助けられたその前の記憶が、私からは欠落していた。人格もなにもかも。
かろうじて残っていたのは、私の名前であるエレルア・ハッテンブルクと、ジャン・キルシュタインという名前だけ。ジャン・キルシュタインが誰かも忘れてしまっているから、私にとってどんな存在だったのか分からない。
けれど、記憶に残っていたのだから、きっと大切な人なのだろう。ハンジさんなら知っているんだろうか?
ぼんやりとそんなことを思っていたら、様子がおかしいと思ったのかハンジさんが目の前でひらひらと手を降った。

「大丈夫? エレルアどうかした?」
「え、あ、大丈夫です…。すいません、折角話していただいていたのに…」
「ううん、気にしないで。今日104期生と食べたんだし、ちょっと疲れてるのかもよ。早めに寝たら?」
「でも…」
「話はまた明日にしよう。無理しない方がいいって」
「じゃあ…。すいません、お先に失礼します」

頭を下げて、隣の部屋へ。硬いベッドに潜り込んで目を閉じる。
数年前までは怖かった暗闇も、今は平気。暗闇の中にいると、そのまま溶け込んでしまいそうで怖かった。
でもリヴァイさんとハンジさんが、いると思うと自然と怖くなくなった。おやすみなさい。私はゆっくりと意識を手放した。

――*
エレルアが眠った数十分後、ハンジの部屋に来客があった。来客はリヴァイ。
ハンジがリヴァイに気付いたらしく、椅子から立ち上がった。

「リヴァイ、ちゃんとエレルアの身分証明書作っといたよ。五年前は出てなかった情報も今はちゃんと出てたから、知られちゃまずいことだけ偽造しといた」
「そうか。それで、身元はどうだった」
「エレルアの身元すぐに出たよ、名前分かってるしね。行方不明者と死者のリスト見たらすぐに出身地も家族構成も分かった」
「そうか。で、家族はいるのか」
「んー、いたけど今はいないね」
「…あの日か」

リヴァイがまゆを寄せれば、ハンジはうん、とだけ返した。
ハンジの渡した書類――エレルアに隠した書類には、ただただエレルアの出身地等が書かれていた。所々偽造されているところはあるが、ぱっと見ただけでは偽造されているとは思わないだろう。
一通り目を通してから、リヴァイは額によった皺を深くしてハンジへ返した。可哀相な生い立ち…というほどでもない。だが、彼女の置かれている現状は残酷で酷いものだ。
エレルアがそう思っているのかは定かではない。あくまでリヴァイの主観だ。ここにいる人間は大抵大きな何かがあっている人間だが、エレルアはそれ以上のものを抱え込んでいた。
それを分かっていながら、リヴァイは言った。

「明日からエレルアを104期生と訓練させる」
「え、リヴァイ、それはマズイって! エレルアのと実力差がありすぎるし、記憶もコミュニケーション能力も欠如してる今の状態で訓練させたら、絶対いざこざ起こしちゃうって!」
「エレルアの記憶の中で大切な存在が、104期生にいる。記憶を取り戻すきっかけになるだろう」
「そうだけどさ…」

乗り気でないハンジを放っておいて、リヴァイはエレルアが眠っている部屋へ入った。
規則的な寝息をたてている彼女の髪をすきながら、リヴァイはただ彼女を見つめるだけだった。
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