QLOOKアクセス解析If I were you, | ナノ
もし、あの日俺がエレルアの手を離していなかったなら。俺は今もずっと、あいつの隣にいられたんだろうか。

If I were you,I would hate me.

懐かしい、髪色を見た。エレルアと同じ、黒い髪。エレルアよりは短いが、同じような夜を思わせる髪。ミカサは、あいつそっくりだった。
多分な、俺は髪の持ち主に惚れているわけじゃねえ。そう、ただあいつを、エレルアを重ねているだけで…。
ずっと、隣にいるもんだと思ってた。俺が守ってやるんだと、ずっとそう思ってた。
けど、そんなこと現実に実現するわけなくて。あの日――五年前のあの日。俺は、あいつを失った。

『ジャン、やだよ、一人は怖いよ、一人にしないでよ…!』
『エレルア! 待てよ! どこ、いくんだよ!』
『ジャンっ!』

思い出すだけで、吐き気がする。ウォール・マリアが壊され、俺達の日常が壊れたあの日。俺はきつく握っていたはずのエレルアの手を、離しちまった。
あの日以来、俺はエレルアを探し続けた。あいつは、俺がいなきゃなんもできねえから。
でも、無駄だった。見つからなかった。せめて、腕一本でも、髪の毛一筋でも良かった。ただ、あいつを見つけたかったんだ、どんな形であれ自力で。
二年してから、俺に届けられたのはエレルアがあの日首から下げていた、俺からの誕生日プレゼント。子供じみた、それでもこのご時世では高価なネックレス。
ああ、死んだのか。その時、やっと涙が出た。今も思い出すと泣きそうになる。
もしかしたら、逃げる途中で落としただけで、まだどこかで生きてるんじゃないか。巨人から逃げて、どこかで平凡に暮らしてるんじゃないか。
そんな、願いにも似た仮説。もしそうなら。俺は今すぐにでも迎えに行くのに。
憲兵団に入って、内地で暮らして、それで、それで――…。暮らしが安定したらエレルアを迎えに行って、それで。
なんてな。そこまで考えて馬鹿らしくなった。生きてる可能性なんて、ほぼゼロなのに。そうやって俺は毎日自分を追い込む。希望を抱いては、そんなことあるはずないと否定して。
冷えたスープを口に運んで、はあ、とため息をついた。エレンの奴が羨ましい。気に入らねえが、幼馴染みが近くにいる。それがどれだけ恵まれたことなのか、分かっちゃいねえんだ。
幼馴染みを、間接的に殺しちまったんだから俺は。

「ジャン、お前これからどうする?」
「部屋に戻る。疲れたし、さっさと寝る」
「ま、訓練ハードだったしなー。おやすみ」

マルコは俺を気遣ってるのかもしれない。それに気付かないふりをしておう、とだけ返して、俺は外へ出ようとした。
その時、俺の横を通り過ぎた1人の黒髪の女。その顔に見覚えがあって、ついその手をとってしまった。
今から食事だったらしく、トレーの上でスープが揺れた。溢れなかったから良かったが、わりいことしたな。
そんなことを思っていると、黒髪の主が口を開いた。

「何の用。食事をしたい」
「お前、名前は…」
「…名前? エレルア・ハッテンブルク」
「エレルア・ハッテンブルク…? しゅ、出身地は!?」
「…さっきから何だ。私は忙しいんだ、邪魔をしないでくれ」

冷たくそう吐き捨てられて、俺の手が払われた。でもそんなことを気にならなかった。
長い黒髪も、深い蒼の瞳も、少し掠れた高いようで低い特徴のある声も。
全部、俺が探していたエレルアそのものだった。死んでなんか、なかったのか。ぼんやりと立ち尽くす俺の中には、ただただ嬉しいという感情しかなかった。
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