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08

 夢の中だと思った夜の出来事は、どうやら夢でなかったらしい。机の上に置かれた二通の手紙は、俺がベッドに横になる前においたもの。
 とても綺麗だったなあ……。記憶に残る少女を想いながら、俺は手紙を開けた。
 手紙の差出人は、黒木百合というらしい。黒木ということは女、なんだろう。男に黒木は普通つけない。文字から考えても黒木は女だろう。
 彼女が俺につけてくれた名前。東洋の文字で花宮。いい名前だと思った。やっと俺にも名前が出来た。苗字だけ、なんだろうが、またあったときに一緒に名前を考えればいい。
 そう思っていたのに、だ。追伸に書かれていた内容に俺の希望は殺されることになった。近日中に町が戦場になるかもしれない。その一文は、俺を絶望のどん底に叩き落すのには十分すぎた。
 黒木は殺されないかもしれないといっているが、そんな保障はどこにもない。現に二通目の手紙で俺に今までの感謝を書き連ねている辺り、死ぬかもしれないと心のどこかでは思っているのだろう。
 黒木を失った世界で、俺はどう生きればいいんだ。この目のせいで誰にも受け入れてもらえない上、年をとるのが極端に遅い体。俺は長い期間、黒木なしで意味もなく生きていかなければいけないのか。
 そんな意味のない人生を送るために逃げるなんて。とてもそんな気にはなれない。それなら、死んだほうがいくらかましだ。
 味気ないコーヒーを口にしたとき。ドアがノックされた。今まで一度もなかった来客。俺は驚いて数秒固まってしまった。仕方ないだろう、この家を訪れる人間なんていないんだと思っていたんだから。
 黒木かと思ってドアを開いてみれば、そこに立っていたのは黒い燕尾服に身を包んだ二人の男。そりゃそうだ、リリィが昼間にここに来るわけないんだから。
 俺に話があるらしい二人を仕方なく家の中に通す。ドアを開けてしまった以上、拒否するのは、無理そうだったから本当に仕方なくだ。その証拠にコーヒーは出していない。まあカップが一つしかないのも理由ではあるが。
 今更なんの話をしようというのだろう。俺を迫害したくせに、何を話す必要がある?

「死神さん、我々は頼みがあってきたんですよ」
「俺は死神じゃない。花宮っていうきちんとした名前がある」
「シカミ、ですか。分かりました。ハナミヤさん、我々はあなたに協力してほしくてここまできたんですよ」

 ――近日中に我々の町まで敵国が進入するかもしれないんです。そこでハナミヤさんにご協力していただきたいと思いまして。その「死神の目」で。
 なるほどな、それを聞いてやっと分かった。こいつらは俺を兵器にしたいのか。まったく、都合がいいときだけ俺に擦り寄ってくるな。
 俺の目は人を殺す能力を持っている。そりゃ、戦争にはもってこいな能力だ。それは自分でも思う。戦争は多く人を殺した国が勝つんだから。
 それでも、俺はもう人を殺さないと誓ったんだ。戦争だろうがなんだろうが、その誓いを破るわけにいかない。俺だって、一応は人間の端くれだ。そんな非道なことを好んでやりたくはない。
 断ろうと思ったが、俺が断ることを予想していた彼らは先手を打ってきた。

「もしご協力いただけたのなら、ハナミヤさんの望みをなんでも叶えますよ」
「……なんでも?」
「ええ、なんでも」

 その言葉に俺の決心は揺らいだ。俺の望みを何でも叶えてくれるっていうのが、本当なんだとしたら。
 黒木を安全なところへ避難させて、戦争が終わった後俺が引き取るのも可能ってことか……?
 そうすればリリィが死ぬことも、俺が戦争の後むなしく時間を浪費することもない。これが通るなら、受けてもいいかもしれない。
 案外俺も欲にまみれていたようだ。前までは無欲だったのにな。一度幸せに浸ってしまうと、どうしてもそれを求めてしまうらしい。
 目の前の二人に条件を伝えると、彼らは目を大きく開いてお互いの顔を見た。それからなんでもないように分かりました、と答える。
 俺と人間が契約をした瞬間だった。黒木の安全が確保されるのなら、俺は犯罪に手を染めてもいいと思った。
 仕方ないだろ、初めて人を守りたいと思ったんだから。

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