QLOOKアクセス解析ハロー、CQ。 | ナノ

05

 ポストの中に入っていた薄桃色の封筒を開いて、中の手紙を読む。今日も政府から手紙が来ていたが、既にゴミ箱の中に捨てた。読もうが読むまいが、俺の返事は決まっているんだから。

『ハロー、CQ。魅力的なお誘いありがとう。でも私、泳ぎにいけないの。だから折角だけど、ごめんなさい。機会があれば、そのときにお願いしてもいいですか?』

 少しいびつな文字を読んで、俺は少し落胆していた。やっぱり、泳ぐのは無理だったか。別に下心があるわけじゃない。ただ手紙の主と会ってみたかっただけ。俺を怖がっているかもしれない。それでも、一回でいいから姿を見てみたいと思った。
 それから何回も手紙のやり取りが続き、ある日突然こんなことが手紙に書かれていた。

『ハロー、CQ。手紙のやり取りをしているのに、あなたの名前を知らないのは寂しいです。名前を教えてもらえませんか?』

 名前。その二文字を見た瞬間、俺は眉を寄せてしまった。仕方ないことだと思う、俺には名前がないんだから。
 俺は幼い頃に両親を殺してしまったらしい。目の能力の制御が出来ず、近くにいた両親が俺の能力の最初の犠牲者になった。
 俺の名前をつける前だったらしい、両親を殺してしまったのは。だから俺には名前がない。あるはずがないんだ。
 町の人間が俺を呼ぶときは死神、だった。俺の目の呼び名から自然とその呼び名は定着した。今もおそらくそう呼ばれているだろう。
 別に構わなかった、名前なんてあったほうがなにかと便利だからついているようなものだ。人間と関わることのない俺に、名前なんてものは必要なかった。
 だが、手紙の差出人に名前を教えてくれといわれている。あなた、よりも名前のほうがそりゃ親密に感じる。俺も名前があったなら名前で呼ばれたいと思うだろうし。
 でも俺には名前がない。自分で名前を考えようにも、俺にネーミングセンスなんてものはない。きっと変な名前だと思われるだけだ。
 ならば。差出人に名前をつけてもらおう、そのほうが相手も呼びやすいだろう。俺とは違って、たくさんの人間と関わりのあるであろう差出人なら、俺にぴったりの名前をつけてくれるはずだ。
 名前を聞かれたのに名前をつけてくれなんておかしいかもしれないが、こればかりは仕方がない。インクにつけた羽ペンで、俺は慣れた書き出しを紡ぐ。

『ハロー、CQ。寂しく思わせていたならすいません。でも俺には名前がありません。そこで、あなたに名前をつけてもらいたいのです。それと、俺もあなたの名前が知りたいです。教えてもらえませんか。』

 断られたらどうしよう。差出人のことだ、きっとそんなことはしないだろう。それでも若干は不安になる。面倒だと思われるのは嫌だな……。
 封筒に二つ折りにした手紙を入れ、封をしようとしたが封筒に入れようと思っていたものがあったのを思い出して手を止めた。
 森にしか咲かない、白い花の押し花。喜んでもらえるかは分からない。だが、手紙を書いてくれるお礼に。
 破いてしまわないように慎重に封筒へ入れ、手紙に追伸を書き加える。

『追伸。気が向いたので押し花を作ってみたので、入れておきます。気に入っていただければなによりです。』

 次の手紙でどんな反応が返ってくるだろう。そんなことを思いながら、俺は手紙をポストの中に置いた。
 森の中を吹く風は、もうすっかり夏のにおいがした。だが、そこに夏のにおいではない、火薬のにおいが色濃く混じっていた。それと同時に鉄くさいにおい。
 まさか、な。気のせいだということにして、俺は家の中へ戻った。ここは国の奥の奥だ、あるわけないだろ、そんなこと。脳裏によぎった仮説を否定するかのようにコーヒーをすすった。
 すすったコーヒーは少し酸化していて、お世辞にもおいしいとは言えなかった。

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