QLOOKアクセス解析ハロー、CQ。 | ナノ

03

 手紙を出し始めて二週間が経って、また今日も空っぽのポストに手紙を入れる。そう、入れるはずだったのに、今日は何故だかポストの中に一通の手紙があった。私がおととい入れた手紙じゃない。真っ白な封筒がただ入っているだけ。
 もしかして返事、だろうか。若干期待したものの、冷静になって考えてみるとそんなことあるわけない。二週間返事がなかったんだ、今更返事なんて来るはずがない。
 浮かれてはダメだ、それで何度も痛い目にあってきたじゃない。私は絶望以外を見てはいけない。絶望以外を望んではいけないんだから。
 自分にそう言い聞かせたものの、一度期待してしまったものを取り消すのは難しい。勝手に手紙を見ます、ごめんなさい。家の主に心の中で謝ってからそっと手紙を開けた。
 重要な書類だったらどうしよう。私のそんな考えは杞憂に終わった。

『ハロー、CQ。あなたの文字は届いています。俺は元気です、あなたもお元気そうですね』

 返事、だった。半分おふざけで書いたCQに応答があった。今日ポストへいれるつもりだった手紙が、手の中で小さく音を立てる。手紙がどうなっていようが今はどうでもいい。手紙が綺麗でも汚くても、この手紙はポストへ入れないんだから。
 十数年前に森の奥へ追いやられた少年。今もまだここに住んでいるなんて確証はなかった。もう何年も彼を見た人がいなかったから、家だけが残っているんだとばかり思っていた。
 けれど。時間はかかったものの、私の手紙に宛てた返事が来た。彼はまだ、ここに住んでいる。ここで静かに暮らしているんだ。
 ここで一つ気になったのは、この家の主は私を町の人だと思っているのかもしれないということ。
 確かに私は町の人だけど、私は彼と同じ。ずっとずっとひとりぼっちで、迫害されて、幽閉されている。
 抜け出せるから幽閉って言葉はちょっと違うかもしれない。でも私とこの家の主は一緒。目の能力で迫害されて、絶望しか与えられないんだ。
 この家の主は、私と手紙の交換をしてくれるのかな。本当に些細な、日常会話ですむような手紙のやり取りでいい。少しでもこの味気ない、私へ理不尽な世界で生きる辛さを和らげてくれないかな。
 ぼんやりとそんなことを考えていたら、徐々に空が明るくなってきていることに気がついた。もう少しで夜が明ける。あわててエプロンのポケットから便箋とインク、それから羽ペンを取り出して返事を書く。
 今日来た返事が気まぐれでありませんように。そんな思いを込めながら、急いで紙に文字を刻み込んだ。

『ハロー、CQ。私はいつでも元気です。この長雨がやんだら夏ですね。一度泳いで見たいです』

 息を吹きかけてインクを乾かす。インクが乾いたのを確認してから便箋を二つ折りにして封筒に入れ、ポストの中に押し込んだ。
 早く帰らないと面倒なことになるなあ。そんなことを考えながら、私は家へ背を向けた。
 返事が来ますように。そう祈ってから、私は自分の“家”へ走った。空は明るい青色に変わりつつあった。

- 3 -
PREV | BACK | NEXT



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -