QLOOKアクセス解析ハロー、CQ。 | ナノ

02

 俺が手紙を無視し始めてはや二週間が経った。相変わらず雨は降り続けているし、手紙も届く。もう梅雨時期なのか。そんな風に思いながら淹れたてのコーヒーをすすった。
 手紙は無視しても一日おきにポストに入っている。いつ、誰がポストに入れているのかはわからない。俺が寝ていたりするときを狙って入れているようだ。
 手紙の内容はいつもハロー、CQから始まる一行。それはどの手紙でも変わらない。些細な日常会話のようなそれは毎回変わった。
 雨ばかりですね、だったり、庭の花が咲きました、だったり。友達と話すだけで事足りそうな、わざわざ手紙にする必要のないことばかりが手紙には綴ってあった。
 少し手紙を読むのが楽しいと思っている自分がいた。俺に向けられる言葉だが、悪意が全く感じられない。むしろ俺と仲良くしている人間のようなそれは、見ていて純粋に嬉しかったし、楽しかった。
 最初は俺をからかうつもりで、町の連中がポストに手紙を入れたのかと思った。だがそれはどうも違ったようだ。
 町の連中は何の反応も返さない俺に何通も手紙を書いて、わざわざここまで届けに来るほど暇ではない。そんな暇があったら俺を殺しに来るだろう、回りくどいことを嫌う連中だからな。
 だとしたら、この手紙は誰が書いているのだろう。まさか俺が二重人格だとかそういうのじゃないだろうな。だとしたら俺は相当残念な頭をしていることになる。
 手紙の文字の形からして男ではなさそうだ。丁寧に綴られた文字は形の整った綺麗な文字。男でこんな綺麗な文字を書ける人間はそうそういないだろう。
 本当に、誰が書いているのだろう。もう一口コーヒーをすすり考える。俺が怖くないのだろうか。それは純粋な疑問だった。
 手紙をポストに入れにきたときタイミング悪く俺が家の外に出て、手紙を書いた人物と目が合えば死んでしまうというのに。寝起きは能力をコントロールできないから、そうなる可能性は大いにある。
 手紙の差出人はよっぽどの命知らずだな。十通近くなった封筒を摘み上げながら、俺は苦笑した。一度ぐらい、この命知らずな人物に返事を書いてやってもいいかもしれない。
 気まぐれにそう思い、椅子から立ち上がって筆記用具をまとめた箱を手にする。そして箱とともに椅子へ戻り、箱の中のペンと便箋を手にした。
 手紙を書くのなんて何年ぶりだろう。手紙というより、文字を書くのがといったほうが正しいかもしれないが、そんな細かいことは気にしないでおこう。
 震える手を制御しながら、俺は手紙に習って短く返事を書き上げた。

『ハロー、CQ。あなたの文字は届いています。俺は元気です、あなたもお元気そうですね』

 手紙より少し長くなってしまったが、まあその辺は気にしないでおこう。インクが乾くのを待つ間、俺はまたコーヒーをすすった。
 返事を書いたとしても、どうせここで飽きて返事なんて来なくなる。単なる賭けや暇つぶしという可能性だってまだあるんだからな。あまり返事は期待しないほうがいいだろう。
 インクが乾いた手紙を二つに折りたたみ、無地の封筒に入れて封をした。ポストに入っていた手紙の封筒も無地だが、封筒の色が違うし俺からの手紙だと気付くだろう。
 宛名も何も書かれていない封筒をポストの中に置いておく。一日おきで手紙が来るんだから、明日には手紙を入れに差出人がポストを覗くだろう。
 手紙に気付けばいいけど。淡い期待を胸に、俺はポストを閉じた。まだコーヒーが残っている。コーヒーを飲みながら気長に返事を待とう。
 今日の俺は生憎の雨模様とは正反対でどこかうきうきとしていた。

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