QLOOKアクセス解析ハロー、CQ。 | ナノ

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 町の中を歩くとき、やっぱり町の人間からは畏怖や差別の入り混じった目で見られたがそんなことどうでもよかった。
 俺の隣には黒木がいて、黒木の隣には俺がいる。それだけでどうしようもなく幸せだと思えるんだから、黒木はすごい。

「花宮さん、本当にありがとう。私、あの石塔で一生を終えるんだって思ってました」
「俺は、もう町の人間に殺されてるんだと思ってた。お前を見るまで、もっと早く迎えにいければよかった、あの日引き止めればよかったってずっと後悔してたんだ」
「私がメデューサじゃなかったら、殺されていたかもしれません。今まで大嫌いだったこの目に助けられたのは複雑ですけど」
「そうか、黒木はメデューサだったのか。だからあの部屋に人間の石像があったのか」

 俺がそういえば、とっさに能力を使っちゃいましたとおどけた返事。まだ死にたくなかった、と目を伏せた彼女の視線の先には白い花の栞があった。
 俺は、うぬぼれてもいいんだろうか。俺も一応人間の端くれだ、そんな反応をされると期待するんだが……。
 家に帰ったら、まず先に黒木の服を買いにまた戻ってこないと。それから生活に必要なもの……例えば布団だとか食器だとかも買って、食料も買わないと。
 買うものはたくさんあるけれど、金は何とかなるだろう。親の遺産……というか、生前の貯金もあるし、政府から定期的にもらえる金もある。化け物にも金を与える政府に今ほど感謝したことはない。
 これから二人だから色々衝突することもあるだろうし、問題も起こるだろう。それでも、そんな毎日がどうしようもなく楽しみなんだ。
 一人じゃない、しかも俺を怖がらない黒木との生活。心踊らないわけがない。やっと黒木ときちんと話せた。それだけでも嬉しいというのに、この先ずっと黒木と話せると思うと、どうしたって口角が上がる。なんて単純なんだろう。

「ねえ、花宮さん」
「なんだ?」
「私、花宮さんの名前をつけてなかったですよね」
「え、あ、そうだな」
「だから、家に着いたら二人で考えませんか。これから一緒なのに花宮さん、って苗字で呼ぶのは他人行儀じゃないですか? 花宮さんは私を百合って名前で呼んでくください」
「いいのか……? 馴れ馴れしいと思わないのか?」
「そんな風には思いませんよ。私から言い出したことですし、嬉しいですもん」
「そうか、それなら百合と呼ばせてもらおう」
「ふふ、どうぞ。あ、それと、花宮さん」
「まだ何かあるのか?」
「ハロー、CQ。あなたに」

 にこりと笑って俺を見上げ、そういった百合に俺の顔が更に緩む。このCQが全ての始まりで、俺と百合を紡ぐ元だった。
 モールス信号の、応答願います。今後きっと百合にはたくさんの応答を求められるだろう。そのたびに、俺はちゃんと応答できるだろうか。
 若干の不安はあるものの、俺は目を細めてこう返す。

「ハロー、seek you。お前を」

 つながったままの手が暖かくて、優しくて。ずっとこんなささやかな幸せが続けば。そんな風に思いながら、俺は百合の手を引いて森の家へ向かうのだ。
 笑んだ君へ、俺の最大の応答をいつまでも。

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