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 町の人間に怖がられながらも、目的地の石塔へ到着。ドアの鍵が外され、石塔の中へ踏み入る。
 ひんやりとした空気の成果、中は少し肌寒い。捲り上げていたシャツの袖を下ろしてボタンを留めた後、ゆっくりと周りを見渡した。
 広くない一階。恐らく二階も広くないだろう。黒木はこんなところで生活をしていたのか。手紙にあった特別な状況というのはこのことなんだろう。
 もっと早く迎えに来られればよかった。あの日追いかけて引き止めておけばよかった。後悔ばかりが浮かんで、階段が上がれない。俺が黒木の名前を出していなかったら、黒木は生きていたかもしれないのに。俺が殺したようなものじゃないか。
 ああ、俺は目を合わせずとも人間を殺してしまうのか。守りたいと思った人間でさえも。
 そんなことを思っていたら、どんと背を押された。背を押されたせいでまだ心の準備が出来ていないのに二階へ。
 予想通り二階も狭く、一部屋しかないようだ。この部屋の中に、黒木が……。
 無骨な鍵が外されて、部屋と廊下を隔てていたドアが開く。ゆっくりと部屋の中へ入ると、真っ先に目に入ったのは石像だった。
 服から見るに軍人らしい。しかも、この国の軍服を纏っている。武器を振り上げ、今にも襲い掛かってきそうな人間の像に、もしかして黒木も俺と同じように能力を持っているのだろうかと疑問が浮かんだ。
 ……まさかな。一瞬そう思いかけたが、そんなことがあるはずないと疑問を頭から追い出し、部屋の中を見渡した。
 狭い部屋の中にはささやかなベッドと文机、それから少しの本が置いてあった。黒木はこんなところで毎日を送っていたのか。
 味気ない毎日が想像できて、俺は眉を寄せてしまった。だから俺に手紙を送ってくれたのか。俺の手紙が、少しでもそんな毎日をましに出来ていたならいいんだけどな。
 そんなことを思いつつ、石像の視線の先へ視線をやる。すると薄紫のスカートが見えた。部屋の奥へ進んで覗き込んでみると。石像の影に隠れるようにして床に座り込んでいる黒木がいた。
 自分に差した影に顔を上げた黒木の目が大きく見開かれる。彼女の手には栞が握られていた。ちらりと覗いた白い花に、俺の頬が緩む。手紙にあった通り、栞にしてくれたんだ。
 なんともいえない幸福感が湧き上がってくる。黒木は俺を指差しながら、驚いた表情のままこう紡いだ。

「ど……、どうして、あなたが……」
「黒木、お前を助けに来た。それから、俺は花宮だ。名付けたのはお前だろう?」
「し、花宮さん……! 私、嬉しいです……! 私、私……!」
「泣かないでくれ。泣かれたらどうしていいか分からないだろ。それとも、俺のことが嫌いか?」
「そんなことっ……! ないに、決まってるじゃないですか……!」
「ならよかった。もし黒木がいいのなら、俺と暮らさないか。そうしたらお前を泳ぎに連れて行ける。……お前ら、文句はないよな? 元々お前らは俺に約束しただろう? 黒木を安全な場所に避難させ、戦争が終われば黒木を俺が引き取る。黒木が生きているなら、まだその約束は生きているはずだ。白紙に戻したなんか言わせねえぞ」

 ドアの辺りで武器を構える人間に問えば、一度は首を横に振ろうとした。だがまた俺が死にたいのか、と軽く脅せば面白いくらいに首を立てに振る。最初からそうしておけばいいのに。学習力のない奴だな。
 黒木につけられた枷を外させて、座り込んだままの黒木に手を差し出す。俺の手をとった黒木をゆっくりと立ち上がらせて人間をどかせる。

「もう俺達に干渉しないでくれ。お前らは俺を殺したいらしいが、俺はお前らに何か害を与えたか? 思い当たる節はないはずだ。もうお前らの顔なんて見たくねえんだよ。この先俺の前に現れたら、そのときは命はないもんだと思え」

 保険のために強めに脅してから、俺達は石塔を後にした。黒木が持って行きたいといった本を片手に下げ、もう片方は黒木の手を握る。

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