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 いつの間にか、多くいた敵は俺の周りに転がっていて、随分と少なくなった敵が降伏すると言ってきた。戦争は、あっけなく終わった。
 こっちは負傷した兵がいただけで、誰も死んでいない。そりゃそうか、俺がほぼ殺しちまったんだから。
 返り血がついた頬を拭って、眼鏡をかける。後ろを振り返れば、町の人間が俺に武器を向けていた。……はあ?

「何の冗談だ。俺はお前達に従って敵を降伏させたぞ。約束は守ってもらう」
「ははははは! お前との約束なんて、守る気はさらさらなかったさ! お前を利用するための嘘だったんだよ!」
「……なんだと?」
「誰がお前のような化け物との約束を守るもんか! 死神、お前は人を殺すしか出来ない化け物だ! 人間と対等に話が出来ると思うな!」

 ああ、そうだ。人間なんて、こんな生き物だった。利用できるものを利用して、いらなくなったらすぐ捨てる。そんな、勝手な生き物だった。
 長く森の奥で暮らしていた俺に擦り寄ってきたのは、戦争で俺の能力が使えるから。町の人間が死ぬ数を減らせるから。
 俺は、利用されただけだったんだ。それもそうだ。俺が人間と馴染めるはずがない。だから迫害され、一人で静かに暮らしていたんだ。
 和解、なんて。出来るはずがないんだ、俺とこいつらの間には深い溝がある。もう埋められないほどに深くなった溝を、こいつらが埋めようとしないことぐらい分かっていたのに。
 嘘で俺を踊らせ、利益だけかっさらっていきやがった。こいつらを信じた俺が馬鹿だった。俺と和解する気があるなら、もっと早く家に来ただろうに、それを考えられなかった俺がただただ馬鹿だった。
 俺は、無駄に働いただけだったのか。約束を信じ、誓いすら破ったというのに。ただ無駄だったのか。
 なんてむなしいんだろう。人間を信じないとあれだけ繰り返し思ってきたのに、結局信じて痛い目を見た。俺は大ばか者だ。
 そこまで思って気付く。約束が最初からないものなのだとしたら、黒木はどうなった。リリィは無事なのか? それとももうこの国から逃げているのか?
 最悪の場合が頭をよぎったが、それは振り払った。嫌だ、考えたくない。黒木が死んでいるかもしれない、なんて。そんな縁起でもないことを考えるな。
 とにかく黒木が無事なのか聞きたくて、目の前にいる男に問う。

「約束が最初からなかったなら……。黒木は今どこにいる、黒木百合はどこにいる!?」
「黒木百合、だあ……? あんな女、殺しにいかせたさ! お前と同じように利用しようと思ったが、お前が協力したからな。あの女は用なしになったんで、今朝何人かが殺しに行ったさ! 今頃血塗れのぼろぼろになってんじゃねの? ぎゃははははは!」

 嘘だ、黒木が殺されたなんて嘘だ。黒木は手紙で自分は大丈夫だと言っていたのに。それなのにどうして。
 俺をぐるりと囲む人間の手にある武器が俺を嘲笑う。よくよく見れば、こいつらメガネをかけてやがる。メガネは俺と目を合わせないようにするためか。こういう準備に関してはこいつらは馬鹿じゃない。
 本気で俺を殺す気なのか。まあ、それもそうか。俺は異端でこいつらからしたら殺すべき存在なんだから。人を殺す目を持った俺は化け物だ。化け物は殺さなければいけないというのがこいつらの思考で。
 俺が殺されるのは分かる。だが黒木は。黒木は殺されるべきではないのに、何故殺されなければならなかったんだ。
 もう一度会いたいと、また怪我未のやり取りをしたいと思っていたのに。もう叶わないのか? 
 目からぼろぼろと涙があふれて止まらない。とめようにも止まらない涙と、体内をめぐる熱い血が警鐘を鳴らす。ああ、もうダメかもしれない。
 そう思った瞬間、メガネが割れた。それも自分のものだけじゃない。近くにいた人間全員のメガネが一瞬で粉々になった。
 それに恐怖した人間が後退しながら銃を向けてくる。まあ銃が震えているから引き金を引こうと俺には当たらないだろうが。

「おい、黒木のところへ連れて行け」
「は……? だからあいつは……」
「俺が遺体を引き取る。引き取って手厚く埋葬する。お前らに任せてられるか」
「テ、テメェ……!」
「死にたいのか? 今は何とか制御しているが、いつ能力が暴走するか分からねぇぞ。さっきのを見ただろう? メガネがなくなったんだから、次は確実に死ぬぞ」

 脅してやれば、おとなしく道案内をしだした。銃を向けていたくせになんて呆気ないんだろう。やっぱり死で脅すのは効果的なのか。
 そんなことを思いながら、道案内をする人間の後ろをついていった。どうやら町外れにある石塔に向かうらしい。
 そこに黒木がいるのか。ああ、黒木すまなかった。今迎えに行くからな。


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