QLOOKアクセス解析It was ________. | ナノ

知りたくなかった、なんて。
いまさら過ぎる言葉は、私の胸の中で泡になって消えた。


It is shock.


校門を出て、峯山さんと坂を下る。峯山さんは少し離れたところから登校しているみたいで、電車に乗らないといけないらしい。
私はそんなに離れていないけれど、駅のバスターミナルでバスに乗らないといけないから、ほぼ帰り道は同じだということになる。
それを話せば、峯山さんはにこりと笑ってなら毎日一緒に帰れるねといった。
もし良かったら、朝も一緒に行かない? そんな風に聞けば、峯山さんはやっぱり笑って一緒に行こうよと返してくれた。
ああ、嬉しい。良かった、前まで一緒に学校に行ってた友達は秀徳じゃないから。
これから毎日登下校は一人ぼっちだと思っていたから、峯山さんが頷いてくれたことは本当に嬉しい。

「そういえばさ、私のこと苗字じゃなくていいよ」
「え?」
「だって友達でしょ? 明華とはもっと仲良くなれような気がするんだよね。クラスも同じだし」
「わ、私もそう思う…! 凜花ちゃんってよんでもいい、かな…?」
「当たり前でしょ! 改めてよろしくね、明華」

凜花ちゃんはそういってにこりと笑う。こちらこそよろしくね、凜花ちゃん。
私が返せば、凜花ちゃんはもっと笑顔を深くした。きらきら輝く、素敵な笑顔。
凜花ちゃんの笑顔は、私のそれとは遠くかけ離れてる。
上辺だけを取り繕った、汚い笑顔。そこに本心なんか全くなくて。
ただ笑わなければいけないから浮かべるだけの、空っぽな笑顔。
それが私の笑顔だった。数年間そんな笑い方をしていたから、これ以外の笑い方なんて忘れてしまった。
眩しいなあ。そんなことを思いながら、自己紹介の延長のような話をしながら駅へ向かう。
あの本が好きだとか、あのドラマが好きだとか。
話に夢中になっていたら、いつの間にか駅についていた。早いなあ、そう呟けばそうだね、と凜花ちゃんも返してくれる。

「じゃ、また明日ね!」
「うん、また明日」

改札口へと消えていく凜花ちゃんに手を振って、バスターミナルへ爪先を向ける。
バスターミナルには丁度バスが来たみたいで、待つことなく乗車できた。
ゆっくりと動き出すバスに揺られながら、配られた台本に目を通す。
身分違いの、報われない恋。時代に翻弄される、叶うことのない恋。
叶わない恋なんて、まるで私みたい。台本と違って、和成は私を幼馴染みとしか見ていないけれど。
劇の中なら、幸せな恋をする役を演じられると思ったのにな。やっぱり、そううまくいかないよね。
ため息と共に漏れた嘲笑。本当に私ってついてないなあ。
劇の最後は、お世辞にもハッピーエンドだとは言えない。見方によっては綺麗な終わり方なのかもしれないけれど、私にはそう思えなかった。

――こんな最後が来るのかな。

ふとそんなことがあたまをよぎったとき、バス内にアナウンスが響いた。そのアナウンスが告げたバス停は、私が降りなければならないバス停で。
あわてて荷物を掴んで、バスを降りる。ああ、危ない。もう少しで乗り過ごすところだった。今度から気をつけないと。
携帯のディスプレイを見て、から家のほうへ。早く帰って、和成の帰りを待とう。シュークリーム、一緒に食べるんだもの。楽しみだなあ、なんて。
単純な思考で一歩を踏み出したとき、後ろから聞きなれた声が耳を通り抜けた。

「お、明華じゃん。何、さっきのバスだった?」
「そうだよ」
「そうだったんだ、部活かなんか?」
「うん。演劇部に入ったの」
「演劇部!? 人前に出るの苦手なのに、よく入れたなー」

だって、台本の中なら幸せな恋愛が出来ると思って。そんな言葉を飲み込んで、ちょっとがんばってみようと思って、とだけ返す。
言えるわけないもの、こんなこと。和成には、言えるわけない。この気持ちは気付かれちゃいけない気持ち、だから。
もう随分となれた作り笑い貼り付けたを顔に貼り付けて、私はただの幼馴染を演じる。大丈夫、和成にばれてなんかない、堂々と笑わなきゃ。
なんて滑稽なんだろう。誰にも気付かれないように気持ちを偽るのは。でも言えやしないんだもの。
私が何を考えてるのかを知らない和成は、いつもの通りにこりと笑って帰ろっか、って私の手をとった。つないだ手から体温が上がっていく。ばれてないかな、和成にばれてないかな。
顔が赤いのを隠すため、ギリギリまで離れてうつむく。嬉しいけど、恥ずかしい。小さい頃はこんな風に恥ずかしがることなんてなかったのにな。
和成の手を握る右手に、僅かながら力がこもった。情けないなあ、好きなのに何も出来ないなんて。伝えられないなんて。
はあ。小さなため息が口から漏れたとき、和成の唇が静かに動いた。

「そういやさ、俺明華に言ってなかったよな」
「え、何を?」

「 俺、好きな人できたんだ 」

信じられないような言葉……いや、信じたくない言葉だった。和成に好きな人、だなんて。
動揺を顔に出さないように、そうなんだ、なんて口にすれば和成はニコニコと笑いながらおう、と頷く。
その子さあ、俺のアタックにも気付かねえの。でも優しくて、料理うまくて、しかも高校で自分の苦手なことに挑戦してるんだぜ。しかもすげえ可愛いの!
嬉しそうにその子の話をする和成。いやだ、聞きたくない。いやだ。
耳を塞ぎたくても、耳なんか塞げるわけない。私が和成を好きなことは、和成に知られちゃいけない。今はなおさらに。
幼馴染だから、叶わないって分かってたのに。でもあわよくば、なんて心のそこで思っていたから。
勝てっこないよ、そんな魅力的な女の子に。私とはかけ離れすぎてるんだもん。勝負したって、勝ち目なんてものない。
馬鹿だなあ。勝手に失恋して、ショック受けて。こんなんだから、和成は私に振り向いてくれなかったんだ。
泣きそうになるのを必死に堪えて口を開く。するりと自然に口から出た言葉は、言うつもりのないこんな言葉だった。

「私もね、好きな人できたんだよ」
「……え?」
「運動が出来る、人気者なの。いつも私のことを気にかけてくれる、とっても優しい人なんだよ」

和成のことを本人に言うのは恥ずかしかったけれど、言った後どうしてか胸は落ち着いていた。まだ泣きそうになるのはおさまらないけれど、けじめだけはついた気がする。
ふう、と息をついてから和成の顔を見上げると、和成は眼を見開いて私を見ていた。
その顔がどうしてか悲しそうで、私はまたうつむいた。
ねえ、どうしてそんな顔するの。喜んで、くれないの?
色んなことが頭をぐるぐる回る。ああ、もう何も考えたくない。考えることをやめたい。
気持ち悪くなってきた頃、和成と私の家についた。聞きたくなかったことを聞いた後だったからか、離れた手にどうしてか寂しさと安心を覚える自分がいた。
家に入る前に手渡されたシュークリームを食べる気には到底なれない。冷蔵庫の中に箱ごと入れて、自分の部屋にこもる。
散々だなあ。クラスは離れるし、失恋はするし。ため息をついたと同時に落ちた雫はとても汚いものに見えた。

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