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日々自分を偽り、演じる私は滑稽なのかもしれない。
でも滑稽でもいい。私自身と、彼が騙されてくれるなら。

It is embarrassment.

いきなりで悪いんだけどねと、三谷先輩が私と峯山さんにクリップでとめられた紙の束を差し出した。
なんだろうと受け取って見てみると、それは演劇の台本だった。
表紙の真ん中に、箱庭の紫陽花というタイトルだけが印刷されている。
この劇をやるんだろうか。私は新入部員だから、裏方になるだろうけど。

「先輩、これは…?」
「文化祭でやる劇の台本だよ」
「文化祭? 文化祭って秋なんじゃ…」
「あ、そっか、君達は入学したばっかだから知らないんだっけ。秀徳の文化祭はね、六月にあるんだよ」

そうだったのか。文化祭が六月にあるだなんて知らなかった。
恥ずかしい話、私が秀徳を受験しようと思ったのは、和成を追いかけるためだけだったから、オープンハイスクールなんて一度も行っていないのだ。
本当は他の学校にしようかなって思っていた。
誠凛は新設校だから、施設は最新で綺麗だろうし。
惹かれなかったのかと聞かれれば否定はできないけれど、和成と離れることと比べれば諦めることは簡単だった。
自分でこの執着は気持ち悪いと思う。和成に知られたら、重いよ明華って言われちゃうんだろうな。

「それでね、君達の配役なんだけど」
「み、三谷先輩、配役ってどういうことですか」
「え? 僕は間宮さんと峯山さんに、箱庭の紫陽花に出てもらうつもりなんだけど」
「私演劇経験ないです…! 先輩方だけで劇をやる方がいいんじゃないですか…?」
「それじゃ意味ないでしょ? あとさっき、部員数が少ないって言ったけど、言葉のあやだったね。部員はいるんだ、結構な数は。問題は演じられる部員の数なんだよ。僕を含め、演じられる部員は四人だけしかいない」
「でもそれなら尚更私を使わない方が…」
「大丈夫、明華さんは輝ける。僕の目に狂いはないよ。それに――」

――毎日自分を演じてるでしょ。
三谷先輩の言葉に、私は目を見開いた。どうして、分かるの…。
三谷先輩に聞いてみようにも、先輩はニコニコ笑ったまま。
逆らえない、なあ…。威圧感はないけれど、全てを見透かされているような気がして…。
先輩の言葉を肯定も否定もせずに、分かりました出ますとだけ口にすれば、三谷先輩はたたえた笑みを深くした。

「よかった、じゃあこの劇の説明からね。この話は明治時代が舞台で、内容は簡単に言うと明治時代のロミオとジュリエットだよ」
「明治時代のロミオとジュリエット…」
「うん、そう。それで配役なんだけどね、間宮さんはヒロインの桜子、峯山さんは桜子の友人の悠陽をお願いしたいんだ」

異論はないよねと笑った先輩に、私達は頷くことしかできず、配役は三谷先輩の希望通りになってしまった。
嫌じゃないけど、ヒロインだなんて。私には不釣り合いな役だな…。
私は脇役だから。誰の記憶にも残らない、印象のない人間だから。
演じることに憧れはしたけど、最初からこんな大役はあまり嬉しくないんだけどな…。
そんなことを思っているうちに、先輩がもう今日は帰ろうかと言った。
その言葉に外を見てみると、うっすら暗かなってきていた。
もうそんな時間なのかと驚く私の手を、峯山さんがギュッと握った。

「もう鍵閉めるってさ。良かったら一緒に帰らない?」
「うん、帰る!」
「じゃ、行こうか」

ニコリと笑った峯山さんに続いて、私も部室を出る。
後は僕がやっておくから、二人は先に帰っていいよという三谷先輩のお言葉に甘えて、その場で挨拶をし、下駄箱へと向かった。
今は全く知らなかった。
このあと最も聞きたくない言葉を聞くことになるなんて。
このときに知っていれば、ある程度は避けられたかもしれないのに。

embarrassment=困惑

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