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ずっと、和成と他人になりたいと思っていた。
何の関係もない、赤の他人だったなら。何回そう思っただろう。
もしそうだったなら、この恋でこんなに苦しむこともなかったのに。

It is envy.

衝撃が走った。私の目の前で繰り広げられる演劇に。
私が演劇部を見つけたのは、本当に偶然でしかなかった。
涙を拭った後、当てもなくふらふらと校舎内を歩き回っていたら、ふと人の声が聞こえた。
そこに吸い寄せられるように近づいて、教室の中を覗いたら、そこが演劇部だった。
すごいと思った。心のそこから、この人たちはなんてすごいんだろうと。
それと同時に、私もこんな風に演技をしたい。そう思いさえした。
演劇部なら。演劇部なら私がどれだけ祈っても叶わない、他人になりたいという願いが叶えられる。
演じている間だけは、私は私でいなくなる。なんて甘美な響きなんだろう。
私を一時的にでも捨てられるなら、私は演劇部に入りたい。

「君、新入生だよね。見学に来たの?」
「あ、いえ、その入部のつもりで来ました」
「え、入部? 入部大歓迎だよ! 部員数が少なくて困ってたんだ! 中に入って!」

男の先輩に部室に引っ張り込まれる。
ほかの先輩方はまたアイツ強引に引き込んだよと、苦笑いを浮かべている。
またってことは、先輩方がそうだったんだろうか。
そんなことを考えている間にも、私は椅子に座らされていた。
隣は同学年の女の子が座ってて、私をじろじろ見てくる。頼むからそんな目で見ないで、居心地が悪い。
部室に備え付けてある冷蔵庫から緑茶のペットボトルを出しながら、先輩は口を開いた。

「僕は演劇部部長、三谷直也。学年は二年。この部に三年はいないんだよ。君の名前聞いてもいいかな?」
「あ、私間宮明華です」
「間宮さんね、よろしく。それから君は?」
「私は峯山凜花です。間宮さん、おんなじクラスなんだけど、私のことわかる?」
「あ、そういえばそうだよね。まだ顔覚えたわけじゃなかったけど、声は聞いた気がする」

そう言えば、峯山さんはにこりと笑ってよろしくねといってくれた。
こちらこそよろしくと笑えば、先輩――三谷先輩が私達の目の前に緑茶のペットボトルを置いた。
ありがたくそれに口をつけると、三谷先輩は入部届けを机の上に滑らせた。

「入部届けは各部でもらうのがこの学校の決まりだから、書いてくれるかな。入部届けは僕が預かるから」
「え、でも入部届けって入部者が直接出すものじゃ……」
「ああ、演劇部は名前だけの顧問はいるけど、実質の顧問は僕だから。先生は何も介入しないから」

なるほど。納得したようなしないような。
でもとりあえず三谷先輩に入部届けを出せばいいらしい。
ペンケースからボールペンを出して、必要事項を書き込んでいく。
書き込み終わって三谷先輩に入部届けを差し出すと、三谷先輩は峯山さんの入部届けと同時に私のものも受け取って、それから笑った。

「ようこそ、演劇部へ!」

ああ、この部なら三年間楽しく部活できそうだ、確信はないけどそう感じた。



(envy=羨望の意味でつかっています)

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