「む…っ」

鋭い斬撃をギリギリでかわし体制を立て直す。破壊の右手にはうっすら血が滲み、黄色の上着を赤に汚した。

「あー、外しちゃった」

「な…!」

「キイ!?」

「やあ。昨日ぶり」

そう呑気に片手を上げるのは、昨日喧嘩したはずのボディーガード、キイだった。
何故か裸足で、この雨の中Yシャツとネクタイ(盛大に緩めてる)スカートだけの見てて肌寒そうな格好。ちなみにブレザーだけは脇に抱えている。

「おま、えっなにやって…!」

「え、いや…危なそうだったから」

「『危なそう』で首突っ込むな!ていうか昨日どこ行ってたんだよ!」

「友達のお家にお泊まりしてた」

「はあ!!?」

「んで軍人さん…大佐サンだっけ?に送って貰ってー呼ばれたから来てー…なんかしたのきみら」

「呼ばれた……?」

「何者だ貴様」

誰に。そう聞く前に、二人の短い会話を遮断したのは他でもなあスカーだ。キイはスカーに向き直り、男の射殺すような眼を眠たそうな眼で真っ直ぐ見据える。

「さっきも言ったけどこの兄弟のボディーガードです」

「去れ。貴様には関係の無いことだ」

「いやいや、何いってんですか」

男を前に、小さい少女は長い刃を突きつける。



「言ったでしょボディーガード(用心棒)だって。誰に許可いれてこの人達に手え出してんの」


「・・・やめろ」

ポツリとした小さな声にキイは振り向いた。俯きがちだったエドワードは真っ直ぐキイを見上げている。

「お前の適う相手じゃねえ…それにこれはお前には関係ねぇ、さっさと逃げろ」

「・・・・・・」

かつて彼が、人間に見えないと言った少女は人間に決まっていて。一般人であるはずなのだ。

むしろ、俺たち錬金術師が、

「は…早く逃げろよ!お前も殺されるぞ!!用心棒だとかそんなのもうどうでもいいんだよ!」

キイは何も言わず、ただ必死に説得するエドワードを眺めている。

「お前はっ・・・!錬金術師じゃ無いんだ!!“人間”なんだから――」



ゴッ



エドワードの言葉が途切れたのは、彼の顔面、正確にはエドワードの頬をキイが殴り倒したからだ。否、殴り倒したなんてもんじゃない。殴られたエドワードはそのまま2Mほど先まで吹っ飛んだ。

「あースッキリした」

「っ、なにしやが――おい!!」

キイの背後に伸びる右腕。刃を下ろした獲物を、易々と待ってくれるわけがない。
しかし、



「――目は覚めた?」



しかし手のひらが、白い髪に触れる前に同じく白い細腕に阻止された。それは間違いなくキイの片腕で、褐色の太い腕を難なく受け止めていて。
サングラスで見えないその眼は驚きで見開かれているのだろう。しかしキイはスカーを見ることはなく、変わりにその眼に写すのは金髪の少年で。



「弟残して死ぬなバカ」



目をまん丸にしたエドワードはアルフォンスを見る。眼が合った弟は鎧の顔なのに、兄と同じに驚いて、兄が生きてることに、心底安心しているのがわかった。

ばっ、とスカーはようやく腕を解放することに成功した。
離された右手は僅かだが握られた圧力により震えていた。

「貴様…何者だ。」

「名乗るほどのものじゃあ御座いませんて」

スカーに向き直ったキイは、刃――閃紅を構えた。




「エルリック兄弟の用心棒が参りますよー」



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