目が覚めると、エドワードがオッサンをリンチしていました。



「俺達の他に機関室に二人、一等車には将軍を人質に4人、
一般客車の人質は数か所に集めて4人で見張ってる」

「あ、キイ起きた?」

「起きたけど…どしたのコレ」

キイが目覚め起き上がってみれば、ロープでぐるぐる巻きにされ何故か顔がボコボコの男達と笑顔で拳を構えるエドワードがいた。アルフォンスに状況説明をしてもらえばようはトレインジャック。しかしエルリック兄弟が、ていうかこの列車にエドワードが乗っているのが彼らの運のツキだった。

しかも男達は彼に禁句ワード(チビ)を放ってしまったらしく今にいたる!

「南無…」

とりあえずキイは合掌した。(ちーん)(死んでない)

「まだ10人も!?」

「どうするんだ、仲間がやられたとわかったら奴ら報復にくるんじゃ…」

男の情報により乗客達が不安げにざわつく。「というか…、」ポツリと呟くキイがアルフォンスを見ると彼も「うん」と頷いた。

「誰かさんが大人しくしてくれてれば穏便にすんだかもしれないのにねぇ」

「過去を悔やんでばかりでは前に進めないぞ弟よ!!」

「過去から邪魔してんのはどこのお兄さんだか、」

「黙れぃ下僕が!!」

「下僕じゃなくて用心棒。で、どーすんのボス」

顔をこちらに向けたキイにエドワードはしょうがない、とため息をついた。

「オレは上からアルは下からでどうだ?」

「はいはい」

「うちは?」

「あ?」

「うちどーすればい?」

キイは何食わぬ顔で自分を指差し聞くと、そこには怪訝な顔をするエドワードがいた。

「…どうするもなにもココにいればいいだろ」

「なんで。つまんない。」

「結局それか!いいからコイツら見張ってろよ!」

「うーん、わかった」

「き…君達はいったい何者なんだ?」

乗客の一人が声をかけた。彼はにい、と笑った。

「錬金術師だ!!」



「うおおおお!!風圧!!風圧!!」

「「かっこわるー」」

((不安だ…))

乗客全員の思考が一致した瞬間だった。(ミラクル!)(そーでもない)







「……。」

ドンパチドンパチぎゃーやらわーやら、上や横から音が聞こえ、とりあえずキイはエドワードが開けた窓へと顔を向けた。風が外から感じ気持ちがよかった。

ふと、視線を感じ周りをみれば不安げな乗客達がキイを見ていたので、彼女は無表情で手をふった、さらに怪訝な顔をされた。

「ほ、本当に大丈夫なのか?彼らは…」

「へーきだよ、あいつら強いから」

「でも鎧のヤツはともかく、まだ小さい子供じゃないか!」

「子供ナメちゃノンノンですよオニーサン、ちなみにそのチビワードもノンノンですよ」

「そもそも君は彼らのなんなんだ?仲間なのかい?」

「ん、うち?…」

仲間、そう言われて思い出したのは、先ほどのエドワードの態度である。
だって仮に用心棒とはいっても、実際は彼らに強引に引っ付いているただの厄介者でしかないはずだから。それにアルフォンスはともかく、エドワードは未だ自分に気を許していないとキイは確信していた。
まず旅に同行してから彼に名前を呼ばれていない。

そして、あの目。

なにをすればいい?そうキイが聞いた時の、何ともいえない表情。
後ろ首をかかれるとでも思っているのだろうか、いや彼は口には出さないが優しい人だ、恐らく無意識にやっていることなんだろう。
自分を信じなくてもいいとあらかじめいっておいたし、彼も彼で「お前を信じた訳じゃねーんだからな!」と言っていた。(エドワードはツンデレ属性だと思う今日このごろ)
偽りで「信じる」と言われるより、「信じない」と言われるほうがずっと気が楽だから。

仲間、そういえば。

「みんな元気かなあ」

自分が過ごしていた場所はを、キイは思いだした。

キイがこの世界にきてこんなことを思ったのは初めてだった。だから尚更考えてしまう、だから尚更深く想ってしまう。その時、ボソリと音がした。

「ん?なに?」

はっと下を向けば先ほどの男達が目を覚ましたらしい、キイは聞き返した。

「このままで済むと思うなっつってんだクソガキっ」

「うわー雑魚キャラの台詞ー」

「うるっせぇ!!てめぇみたいなガキ、バルドが…」

「バルドだかバトンだか知らないけどさぁ、」

言いながらキイは男に歩み寄りしゃがみこんだ。その時、男はニヤリと口元を上げた。

――このときを、待っていた!

縛られていたロープが切れ、男の腕が大ぶりに彼女にせまる。
だれかの悲鳴が聞こえた。

「おーっと、動くなよ」

男のがっちりとした腕に絡まれ、ぶら下がる形になった高橋の首にはナイフが構えられていた。仕込みナイフだったらしい、もうひとりの男もそれでロープを切り自由の身になる。男はかなり興奮しているようだった。

「…………」

「なんだ?ビビって声も出ねーってか?カワイーなオイ、
だがおめーらは暴れすぎた。

ここで死ななきゃならねぇ」

ぎゃはははと笑う男。静まり返った乗客達。

絶対絶命だった。

「いや、どうせならあのチビの人質になってもらおうか?
お嬢ちゃんあいつらの仲間みたいだからなぁ、たっぷりお返しせにゃ「あのさあ」…あ゛?」

「離してくれません?」

キイは相変わらず無気力だった。
勿論、男の怒りのボルテージは高速で上がった。ジャキッ、と彼女の顔にナイフを近づける。

「…おいおいお嬢ちゃん、コレが見えねーのか?そのキレイな顔傷つけたくなかったら大人しく「いや、だからー」

「・・・!?」

「暑っ苦しいし」

ぐっと、キイの手に力が入ったとき、男は有り得ない違和感に気づいてしまった。力を入れた先は男の腕、そして彼女は大の大人、しかも男の腕の力お構いなしに細い片腕でなんなく押してナイフから遠ざけているのだ。

(…なんだこのガキ、どこに、)

「使い方も知らないクセに、刃物ブンブン振り回すなって…」

(どこにこんな力が―――!!?)

「言ってんでしょーがっ」

「ぶっ!!」

キイが後ろから頭突きをすれば、男の顔にミラクルヒット。
ゴキン、と嫌な音がなった。
鼻が折れたらしい、気絶した同士を見て怒りに満ちたもうひとりの男は落ちたナイフを拾い、キイ目掛けて突進してきた。

「コッ…ノオオ!クソガ……―――!?」

しかし、男が突然立ち止まった。ナイフが届く前にキイが、男の目前、ナイフの目の前にいたから。ナイフは彼女の右眼を掠め、眼帯が待った。
そのとき男が見たのは、――紅い、眼だった。

ぞわあ、と。
ソレを見た瞬間、悪寒が走り体中がぶありと汗にまみれた。ただのオッドアイのはずなのに、ただの紅い目玉のはずなのに、今にも殺されそうな、喰われそうな、殺気が、おぞましい、恐ろしい、怖ろしい――――!

「う、わあああああ」

いつの間にか振りかざされた刀は男の躯を貫くことはなく、男目の前に寸のところで突き刺さった。そして、突き刺さった刀によりナイフは真っ二つに割れていた。

「仲間じゃないよー。だからうちを人質にしても意味ないの、OK?」

「…………じゃ、じゃあ…っ」

しゃがんでいたキイはガタブル震える男に向かい顔を近づけ静かに言った。
男はガクガクの唇をようやく動かし、問うた。

「なんなんだてめえは……
なんなんだ、何者なんだ―――!」

答える前に男の顎を蹴り上げる。
ガッ、という打撃音と「ガフッ」と男の口から息が漏れ、その場に沈んだ。
チン――、刀を鞘へ納め、キイは男を見下ろした。

「化け物だよ」

列車が一気に静まり返るなか、キイは静かに眼帯を拾い右眼につけなおした。

「お、あっちもおわったかなー」

冷たい空気が、満ちた。



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