You seeming were a person from whom, and a monster who was gentler than anyone. arranged it in the person ..no..


貴方は人では無いけれど、誰よりも人らしくて、
誰よりもやさしい化物だったわ。




「迷った。」

そう口にしたのは、大統領宅を後にしてから一時間後のことである。
未だに雨が降っていたので、制服のブレザーを頭に被ってとりあえず歩いていると、とあることに気づいたのだ。

「……どこ行こう」

そう呟いて、とりあえず泊まっている宿へ向かおうとまた歩を進めるも、いかんせん最大のミスが二つあった。まず、大統領宅への移動手段が車だったこと。スピードが上がった道を当然キイが覚えているはずもなく、そして二つ目が、キイがどうしようもなく方向音痴だということだった。

「……………」

そんなことを微塵も感じさせないキイは、ただ無言で黙々と歩いていた。しかしこの少女、現在進行形で迷子である。

「………」

そしてもう一つ付け加えるならば、彼女は運が良かった。キイの姿に、遠目から気づいた人物がいたから。

「大佐?」

「あれは……」

真っ黒いブレザーを被っていて一瞬解らなかったが、その珍しい制服には、見覚えがあった。彼は部下に車を回させ、(中尉も気づいたようだ)近づいてクラクションを鳴らすと、意外に小さいブレザーお化けがそれに気づき立ち止まったのを見計らい車を止めた。窓を開けるて見ると、

「君は…」

「あ」

真っ黒いブレザーお化けの中から、真っ白い毛が姿を表した。

「鋼のと一緒にいた…Msキイ、だったかな」

「鋼…」

「ああすまない、エドワード・エルリックのことだ」

車から顔を覗かせたのはロイ・マスタング大佐、その人だった。因みに運転席にいたのはリザ・ホークアイ中尉で、中尉はキイ一人しかいないことに気づいて違和感を感じた。

「キイちゃん、宿にいたんじゃないの?」

「ん?」

「エドワード君がそう言っていたのだけど…」

喧嘩をしたのが昨日の今日で、しかも成り行きとは言え大総統の家でお泊まりしましたなんて想像すらしないだろう。頭の片隅で、エドワードがバツが悪そうに誤魔化す姿が目に浮かぶ。

「最近友達になった人の家に行ってーこれから帰りです」

「…ここからホテルまで随分の距離を歩いたんだな?」

「はい。迷いました」

「………。」

ロイはキイの顔を、目を細めてジッと見る。失礼ではあるのだが、子供とは思えないやる気の無い…というか、少女とは思えない純粋さが抜けていると言うか、とにかく常人とはちょっとだけ生気の薄れた眼差しをこちらに向けてくるが、嘘では無いと思った。だが、どこかおかしいとも思った。

「……兎に角、車に乗りたまえ。上着では間に合わないだろう」

「大佐…」

けれどとりあえず、ロイは割り切ることにした。何かあったのだとしても彼らの問題だろうし、今は現場に向かわねばならない。かと行って幼くも傘を持たない女性を雨の中置いていくのは紳士の名が廃ると言うやつだ。

「少し付き合って貰うが、宿まで送ろう。かまわないね?」

「あー、ありがとうございます」

そう、嘘は言っていない。友人の家に行っていたのも、そこからさまよいずっと歩いていたのも。『最近仲良くなった友人』が、この国のトップと言うのを抜かしているだけで。
「お邪魔します」と言って後ろの席に座り、シートベルトをはめて車は出発した。

「付き合って、と言うのは我々がこれから向かう場所なんだが、済まないがキイは車で待っていてほしいんだ」

「どこ行くんですか?」

「ショウ・タッカー氏の所よ」

ショウ・タッカー。直ぐに頭に浮かんだのは、変わり果てた女の子と犬の顔だった。あれだけのことをしたのだ。上の人物、つまりロイが動くのは道理だろう。

「ニーナとアレキサンダー、どうなるんですか」

キメラと言う地球外の生物に、それも父親の手でいとも簡単に成り下がってしまった彼女たちの運命が、気になった。

「……死んだわ」

なのに答えは、その運命が散ってしまった後だなんて。
ミラー越しに見えた少女は、エルリック兄弟とは違って落ち着いていたし、大きな変化こそ無かったが、表情は驚いているのが直ぐにわかった。

「……それは、『混ざっちゃった』からですか?」

外国独特の違いなのだろうか、それとも子供特有のそれなのだろうか。彼女の表現は、普通とは違って感じる。素直と言うより直接的と言えばいいのか。エルリック兄弟にはスラスラと言えたのに、この子供にこれを言うことが正しいのか、リザは一瞬迷ってしまう。

「…『殺された』のよ。父親共々」

「…………」

「詳しくはまだわからないが、それを調べる為にこれから現場へ向かうんだがね」

「当然だが、キミも見ない方がいいだろう」喋らなくなったキイにロイが付け足すように補足すれば、長い沈黙の後、「そうですか」とだけ言って席に背中を預けて脱力した。

「…詳しく聞かないんだな」

顔を上げ、聞いてきたロイを見る。「エルリック兄弟は詳細を求めてきたから」

「殺されたって時点で結構深く無いですか?」

「それはそうだが…キミは大人しいというか」

「あー…なんか似たことエドワードに言われました」

「人間に見えねえ…綺麗事ばっか並べるヤツが!
あの子を語ろうとするな!!」


「死んじゃったら、何も出来ませんよ」

先ほどとは違い前席を真っ直ぐに見て言うキイから、表情が消えていた。緊迫としたものでも無く、あくまで落ち着いて彼女は言う。

「どんな姿になってもニーナはニーナで、アレキサンダーはアレキサンダーで、生きてるならそれで良かったし、元に戻す方法が無いなら探して戻せばいいし、実験体になるなら攫ってでも止めればいいし、どうしようもなくても、嘆くよりも、生きてるならいくらでもどうとでも出来るんです。

死んだことにしちゃ、いけないんです」

「………」

「…………」

「でも本当に死んじゃったら、本当にどうしようも無いじゃないですか」

諦めたような言い方は綺麗事を並べる大人のようで、さらりと言ったむちゃくちゃなそれは無垢な子供のようで。それなのに表情だけは読めない彼女は、何を考えてそんなことを言っているのだろう。

「だから出来ることなんて、ちゃんとお墓作ってお供えして、『迷わないで行くんだよ、そしたらまた会おうね』って言うぐらいなんです。でなきゃ、ニーナたち安心して行けないじゃないですか」

何処にとは言わなかったが、わからないわけが無かった。

「ただ、そうですね。悲しいって言うか…」

「会えなくなるのは、寂しい」



気がつけば現地はすぐそこまで近づいていて、門のすぐ傍で車は止められた。

「そこまで時間はかからないと思うから、何かあったら門の兵に言ってね」

リザが後ろを振り向いて言えば、キイは「はーい」と手を上げた。相変わらず表情は変わらないが、さっきの空気とはまるで違って晴れやかだ。リザが薄く笑ってロイと中へ入るのを見届けると、ふぅ、とため息をついて後ろへもたれかかった。何気なく窓へと頭を背けた。しとしと、と雨が透明な膜を渡ってくのをじっと見ていた。

「……」

その時、人っ子一人いない通りに、傘を持たずに歩く男が目に入った。遠目でもわかる大柄の男が丁度電柱へ立ち止まり、此方を振り向いた。
目があった気がしたが、この距離でキイは車越しなのでそれはない。正確にはロイたちが入っていったタッカー宅を顔だけ背いて見ていたのだと知る。そして気づいたのは、褐色の肌、着用しているサングラスでは隠れ切れていない額の大きな傷。
男はいつまでもそこにいることは無く、そのまま通り過ぎて行った。



男の瞳は、血のように赤い。








 ×back

しおり
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -