暗い、空の下。



「今日は降るなこりゃ」

呼び鈴を引く。
カランカラン、乾いた鈴の音が響いた。

「こんにちはー
タッカーさん今日もよろしくお願いします」

しかし誰の返答も聞こえず、扉を開けても誰の姿もない。
シン、と辺りは殺風景だった。

「いないのかな」

「タッカーさん?」

「ニーナ?」

エドワードとアルフォンスがタッカーをよび、キイはニーナを一番に呼んだ。キイはニーナ贔屓だった。

「タッカーさーん」

「ニーナー」

しばらく歩いていると、研究室の影に人影を見つけた。タッカーが片膝をつき、ナニカを見ている。

「と、なんだ、いるじゃないか」

「ああ君たちか。見てくれ、

完成品だ」

「?」

ひょいと隠れている影を覗いた。その"ナニカ"にキイが気づくまで、時間はかからなかった。

「―――――――――!」

「人語を理解するキメラだよ。見ててごらん、いいかい?この人は…」

動けない、聞こえない。

初めて見た、"合成獣"。でも初めてのように感じなかった。

"彼女たち"、は――――。

「えどわーど、えどわーど」

「おい、眼鏡ハゲ」

「え…」

「!?おい、おま」

「えどわーど」

いつものノビはなく、はっきりした口調でタッカーを見る。
思わぬ暴言にタッカーは顔を上げた。エドワードも否めようとして、キメラに遮られる。
長い毛の、獣の頭を軽く撫でたあと此方を見下ろす彼女の真っ黒い瞳は、無表情だけど、冷たい眼。

「これはどういう冗談ですか?」

「えどわーど、」

「あなたたち錬金術師は」

 お  にい ちゃ 


「家族に手を出すのが趣味なんですか?」

エドワードが目を見開いたのは、キイの言葉の意味を理解したのは、同時だった。エドワードはキメラを見たまま、タッカーを呼んだ。

「人語を理解するキメラの研究が認められたのはいつだっけ?」

「ええと…2年前だね」

「奥さんがいなくなったのは?」

「……2年前だね」

淡々と答えるタッカー。
エドワードはまだ、此方を見ようとしない。

「もひとつ質問いいかな」

またエドワードも、キメラを、"彼女たち"を撫でた。振り向いた彼は、鋭く睨む彼の眼は、怒りに燃えていた。

「ニーナとアレキサンダー、どこに行った?」

アルは二人の言葉に、"ソレ"に気づいた。エドの睨みとキイの冷たい目に、タッカーが返したソレは、邪険で汚物をみるような眼だった。

「……君らのような勘のいいガキは嫌いだよ」

打撃音が、広い空間に響く。

小さいながらも力強い腕は大の大人を捉え壁に叩きつけた。頭を強く打ったタッカーは、がは、と一瞬咳き込んだ。それでもエドワードはその腕の力を弱める手段を知らない。

「兄さん!!」

「ああ、そういう事だ!!
この野郎…やりやがったなこの野郎!!2年前はてめぇの妻を!!そして今度は娘と犬を使ってキメラを錬成しやがった!!」

「…………!!」

アルフォンスはただ、佇む哀れなキメラを見下ろすしか出来な無かった。

「そうだよな、動物実験にも限界があるからな。人間を使えば楽だよなあ、ああ!?」

「は…何を怒る事がある?」

首を絞められる圧迫感に耐えながらも、タッカーは弁解をせずに、寧ろ開き直りいけしゃあしゃあと言ってのけた。

「医学に代表されるように人類の進歩は無数の人体実験のたまものだろう?
君も科学者なら…、」

「ふざけんな!!こんな事が許されると思ってるのか!?
こんな…人の命をもてあそぶような事が!!」

「人の命!?はは!!そう人の命ね!鋼の錬金術師!!

君のその手足と弟!!

それも君が言う"人の命のもてあそんだ"結果だろう!?」

単なる挑発なのか開き直ってなのか、今のエドワードには禁句の言葉だった。

ブチィ、とエドワードのナニカがキレた。

ゴッ、

重たい拳が、音が、タッカーの頬に食い込む。それでもタッカーが言葉を止めることはない。

「がふっ…はははは、同じだよ君も私も!!」

「ちがう!」

「ちがわないさ!目の前に可能性があったから試した!」

「ちがう!」

「たとえそれが禁忌であると知っていても試さずにはいられなかった!」

「ちがう!!」

「ごふ!!」

鈍い音が続いた。
なんども、なんども、

「オレたち錬金術師は……

こんな事……」

キイは珍しく眼を見開いきエドワードを、その一定の動作を見てた。見るしかなかった。

分かるようで、解らなかった。
この男は、何を言ってる?

「オレは…オレは…!!」

まるで、それはまるでエドワードが人を殺したような、"殺すより非道い殺戮"を、犯したような。

びちゃ、とエドワードの顔に血が跳ねた。



「兄さん、それ以上やったら死んでしまう」

アルフォンスが、兄の腕を掴んだ。兄とはまた違う、力の重さ、
エドワードは悔しさに顔を歪めながらも、力を抜いた。

「はは…、きれいごとだけでやっていけるか…」

ドコォ!!

何が起きたか、一瞬誰も分からなかった。

タッカーが横をちら、と見ると、細い脚が、彼の頬数センチ離れた壁にめり込んでいる。

「頭部粉砕と、鎧のたこ殴り。どっちがいい?」

無表情のままだが冷たい眼は消えていた。
とりあえずはスッキリしたらしい、タッカーはズル、と恐怖からか壁から少しずり落ちた。

「ニーナ」

アルフォンスはキメラ―――ニーナとアレキサンダーの頬に手を添える。

「ごめんね。ボクたちの今の技術では君を元に戻してあげられない」

優しくなでる彼の表情はわからないのに、なんとなくわかった気がした。

「ごめんね、ごめんね」

「あそ、ぼう

あそぼうよ、あそぼうよ」

雨のなかから聞こえるのは、少女の、心の入っていない声だった。




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