「へー、お母さんが二年前に…」
生体の錬金術を調べてから何日かたった。
今日は資料室でエドとアルの他に、ニーナとアレキサンダー、そしてキイがいて、
ニーナと一緒にアレキサンダーに寄りかかり本をパラパラとめくってみたりする。
「そっか、こんな広い家にお父さんと二人じゃさみしいね」
「ううん、平気!
お父さんやさしいしアレキサンダーもいるし!」
特に意味もなくページをめくりながらニーナの話に耳を傾ける。
彼女の母親は二年前に実家に帰ったらしく、今は父親と二人暮らしなんだとか。
明るく答えるニーナは「でも…」と呟きアレキサンダーに顔をうずめた。
「お父さん、最近研究室にとじこもってばかりでちょっとさみしいな」
可愛らしい大きな目は、若干伏せがちで少し憂いを含めていた。
彼女はまだ、遊び盛りの子供なのだ。
「……あー―――
毎日本読んでばっかで肩こったな」
「肩こりの解消には適度な運動が効果的だよ兄さん」
「そーだなー庭で運動してくっか」
ゴキゴキと首の骨を鳴らすエドワードは呟くと、アルフォンスの言葉と共に立ち上がった。
「オラ犬!!運動がてら遊んでやる!」
びし!と、鋭くアレキサンダーを指差すエドワードはなんというか、
「素直じゃないなぁ」
「なんか言ったかコラ」
「べっつにー」
「さ、ニーナも」
嬉しそうに笑う彼女を見ると、こちらまで癒された。
「やっぱり子供は素直がいいよ、うん」
「オイなんで俺を見るんだゴラ」
「べっつにー」
最近エドワードをからかうのが、ちょっと愉しみだったりする。
★
「―――お前さぁ」
「んー?」
タッカー家を出たあと、ポツリと呟くように呼ばれた。名前じゃなくて"お前"、今では当たり前になっていた。
まぁそれはさておき、振り返る。でもエドワードはこちらを向かなかった。向かないで、聞かれた。
「なんでなんも聞かねえの」
一瞬、間が空いた。
「なにが?」
「なにがって…、」
ようやく振り向いた少年の顔は、少女のキョトンとした顔とは逆にどこか焦ったような顔だった。なんとなく言いづらそうな、かお。
「……見たんだろ、その、…アルフォンスの、…なか」
「…………ああー」
思い出した。ポンと手のひらに拳をのせた。
恐らくアルフォンスの中身事件(?)だろう、そんなに長い時間ではなかったが急なことというのもあって忘れていたらしい。
「確かにすごかったねえ、アレどうなってんの?」
あからさまな興味本位の姿勢で聞いてくるキイに、エドワードはむっと眉を寄せた。
「…別に、おまえには関係ないだろ」
「まあ、それもそうだね」
「……」
「……」
「………あ?」
「ん?」
静まった空間に、エドワードは思わず背けていた顔を振り向いた。当然、それに反応したキイも振り向き、お互いの目が重なってしまった。しかしそれどころではないエドワードはその視線を外すことができない。
「…それだけ?」
「それだけって、言いたいの?なにツンデレ?デレ?」
「ツっ!?ちっ、がくて!」
もっと聞いてくるかと思った。追求してくるかと思った。
この旅の目的とか、賢者の石のこととか、生体錬成に関わる理由とか、
自分達兄弟の、身体のこと、とか。
鎧のことがバレたと弟自身に知らされたとき、あのムカつく女のことだから真っ先に聞いて来るんじゃないかと、そう思っていた。
思ってた。のに、
首を傾ける少女を見てエドワードは、なんだがごちゃごちゃ考えることに馬鹿馬鹿しく感じた。
はあ、とため息を吐くエドワード。それをじい、と見ていたキイは彼の頭を撫でてみる。綺麗な金髪はさらと指を透き通ったが、その持ち主であるエドワードがキレるまで、あと2秒後。
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