ガチャリ、ドア独特の音が軋み部屋から出てエルリック兄弟が一番に見たのは、キイだった。

「終わったー?」

手をひらひらと振るキイに、エドワードはとくに気にせず歩きながら彼女に告げた。

「俺ら行くとこあるから」

「オーケー。よし行こう」

その言葉にピタリと止まり、ジト目でキイをみるエドワード。簡潔に言えば、実に迷惑そうだった。

「…ついていく気か」

「え、あたまえ」

だってさ、とエドワードの肩を掴み後ろを親指で指差した。

「うちをこんな大人だらけのとこに独り置いてみ?
浮くよ?気まずいよ?空気淀むよ?軍人さんの邪魔しちゃエドだって後味悪いっしょー」

ん?と見つめてくるキイにエドワードはなんだか追いつめられた気分になり、う゛…と顔を歪ます。

「大体お前そんな繊細なキャラでもないだろ!」

「失礼な、繊細だよー独りになると寂しくて死んじゃう」

「小動物か!」

「いいじゃない兄さん」

「アル!お前まで……」

「いいじゃないか、鋼の」

「大佐は黙ってろ!!」

で、けっきょく。

「ボディーガードがそばにいないでどうするのー」

ムスッと顔を強ばらせるエドワードにもマイペースなキイは相変わらず器がデカいと思う。





そんなこんなで着いたのがここ、【綴命の錬金術師】ことショウ・タッカー氏の自宅。

『遺伝子に異なる二種以上の生物を代価とする人為的合成』―――"合成獣(キメラ)"なる生物の錬成の研究をしている人で、二年前に人語を使う"合成獣"の錬成に成功して国家錬金術師の資格をとった人物、らしい。

全く聞き慣れない単語に、キイは「合成獣ってなに?」なんて疑問を投げつけ彼らを驚かした。(一般人扱いでなんとか説明は逃れたが)
とにもかくにも、だ。

「でっけー家」

大きな家のそばでボヤくエドワードは不意に、草陰からの小さな音を感じた。
くるりと、振り返った。

刹那―――――

「ふんぎゃぁぁああああああ!!!」

「こらだめだよアレキサンダー」

扉から聞こえてきた声に振り返る大佐とアルフォンス、そして大きな犬に潰されたエドワードをほっといてそのフカフカの毛を撫でるキイ。彼女の顔は若干愉しげでなくもない。

「わぁ、お客さまいっぱいだねお父さん!」

「ニーナだめだよ、犬はつないでおかなくちゃ」

改めてキイも扉のほうを見ると、長いおさげの可愛らしい女の子、そして彼女の父親―――ショウ・タッカーがいた。





「おいでアレキサンダー」

「わぁ、お姉ちゃんすごいね!」

庭で遊ぶのはニーナとアレキサンダー、そして大きいアレキサンダーを容易く持ち上げる小さいキイ。

ここからは"彼らの話"と、席を外したのだ。

と、その時

「キイ?ニーナ?」

「お、アルー終わった?」

ひょっこり窓から現れた大きな鎧。話が終わって、タッカー氏の資料室を拝借させてもらう途中らしい。ちなみに今、ニーナはアレキサンダーを追いかけて少し離れた場所にいる。

「今、兄さんと調べ物してたんだ」

「調べ物?それよか一緒に遊んでくれよ」

「え、でも…」

兄さんが、呟くアルに手を伸ばした。悪気はない。
どちらかというと悪戯心、好奇心。
アルはとっさのことで、体が反応しなかった。

その、兜の先端にある、さらりと揺れる毛に触れ――――

「でっかい図体してなにをいうかー

お兄ちゃ、」

――カパッ

「「!!!」」

頭が、否、体が、

無―――――――

「お姉ちゃーん!」

「「!!!」」

――カポッ

兜を素早く被せる彼女のソレは、早業だった。

「ニーナ、鎧のお兄ちゃんが遊んでくれるってー」

「え、」

「ホント!?」

「ホントホントーよし鎧の兄ちゃん肩車だー」

「わーい!」

「ええ!?」

キイに振り回され気味アルフォンス。





「アレキサンダー、ごー。」

「にぎゃあああああああああああ」

「あ、兄さん」

またもアレキサンダーに潰された(←)エドワードの悲鳴を聞きつけ、アルフォンスとニーナが本棚から顔を覗かせた。

「あ、兄さん。じゃねーよ!!資料も探さねーで何やってんだ!!」

「いやぁ、ニーナ遊んで欲しそうだったから
キイにも誘われたんだ」

「なごむなヨ!」

「身長だけじゃなく器もちっちゃいのか」

「てんめえええ」

「アレキサンダーもお兄ちゃんと遊んでほしいって」

「…ふっ…、この俺に遊んでほしいとはいい度胸だ…」

べろべろとアレキサンダーに顔を舐められ、ソレを笑って拭いて言うエドワードの目は、笑っていなかった。

「獅子はウサギを狩るのも全力を尽くすと言う……

このエドワード・エルリックが全身全霊で相手してくれるわ犬畜生めッッ!!!」

「あははははは」

「「(子供だ…)」」

エドワードは器も身長もちっちゃかった。(誰が豆粒だ!!)(言ってない)

結局、ドップリと日が沈み大佐の部下であるジャン・ハボックが向かいに来るまでずっとエドワードはアレキサンダーに遊ばれた。(哀れ)

「お姉ちゃんも明日来てくれる?」

「うん、また明日ね」

バイバーイと手をふって前を向く瞬間、ハボックと話していたタッカーの顔を、キイが見ていた。

「………」

「?キイちゃん、どうした?」

「眼鏡って、基本怪しくないですか?」

「は?」



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