「焔の錬金術師だ

覚えておくといい」

列車からでたら、
オジサンが焦げてました。

「あれー」

キイはとくに誰に言うでもなく、ポツリと呟いた。

「なんかデジャヴ」

「あ、キイ!」

声の方に振り向くとアルフォンスが駆け寄ってきた。

「終わったみたいだねー」

「うん」

「ところであの人はなんで焦げてんの?」

「……あはは」

とりあえず乾いた笑いしかできなかった。

「あ、そう言えばキイ」

「ん?」

振り返りアルフォンスを見ると、なんだか言いづらそうに下をむいていた。

「僕達ちょっとここの大佐さんと話があるんだ」

「大佐…軍人のヒトと仲いいんだ」

「まぁ…一応兄さんが軍のひとだからね」

「ふーん。じゃあ外で待ってる」

「あ、外じゃなくても軍の人に言えば大丈夫だと思う」

「おけおけー」

「…ごめんね」

唐突に、アルフォンスが誤った。恐らくキイを省いているという罪悪感だろう。

「?なんでアルが誤んのー」

しかし、キイはそう言い放った。キョトンと不思議そうに、というわけでもなく、本当にいつも通りに。
アルは一瞬固まった、驚いているのだろうがキイはお構いなしに彼の手を握った。

「ほら、いこ」

「う…うん。―――って、あ!」

「ん?」

「キイ怪我してる!」

「え?…あ」

彼女の顔を改めて見て気づいた、眼帯の下の頬に、一筋の赤。そこから赤く滲むソレがチラリと覗いていた。言われて気づいた、恐らく、というか確実にあの脱走しかけた男達のナイフのせいだろう。

「列車でなんかあったの!?」

「オジサンが仕込みナイフ持ってた」

「ええ!?」

「大丈ー夫だよやり返したから」

「そういう問題じゃないだろ!」

「わっ」

「キイは女の子なんだから、顔に傷作っちゃ駄目だろ!」

アルフォンスは大きい手でキイの手をガシッと掴みエドワード達のもとへ早足で歩いていった。
今度はキイが驚く番だった、といっても彼女の場合は呆けたと言ったほうがあっているだろうが。

「とりあえず消毒…」

「おーいアルー」

遮ぎった声はエドワードだった。
隣には軍服を着た男性と、同じく軍服を着て男性の後ろに控える女性、多分男性の方が大佐とやらなのだろう。

「兄さん!キイが、」

アルフォンスがエドワードに説明しようとしたとき、ぱち、と。男性と目があった。そして男性がエドワードに顔を向けて言った。

「マセてるな鋼の」

「違うわ!!」

「えーと、はじめましてキイ・高橋ですー。エルリック兄弟の用心棒(ボディーガード)やってます」

顔を真っ赤にして怒鳴る初なエドワード少年をほっといて、キイは自己紹介にはいる。しかし男性――もといロイ・マスタングは彼女の"用心棒"の言葉に眉を潜めた。

「ボディーガード?鋼の、君は女性に守られているのかい?」

「違えよ!コイツが勝手に…」

エドワードが言う前にロイがキイの顔、血がでている頬に手を添えた。
紳士っぽい仕草だが一歩間違えればセクハラである。

「怪我をしてるな」

「あ!そうだよ兄さん!さっき…」

説明をしたと同時にエドワードが驚いた声を上げキイを凝視した。

「はあ!?仕込みナイフ!?」

「ふむ、この上司にしてこの部下ありか。女性に危害をくわえるなどもってのほかだな」

「どうなったんだよお前!?」

「そりゃあやっつけましたよ」

「まじか!?」

「見張れって言ったのエドワードでしょう」

「ほう、鋼のが…」

大佐が呟いた途端、周りの目が痛かった。(それはもうじとっと)しかし高橋の言ったことは事実なのでエドワードは何も言えなかった。そこらへんが何とも彼らしいといったところだろう。

「だがまぁ…ボディーガードをするだけはあるな」

そう言ってロイはキイに手を差し伸べ、いつものとろけるようなキラースマイルを彼女に向けた。

「ロイ・マスタング
焔の錬金術師で地位は大佐だ」

「よろしくおねがいします」

キイはとくに気にせず、ロイの手をとるのだった。

「我々は話があるので、君は医務室で見てもらうといい」





「貼るだけでいいですよー」

「駄目よちゃんと消毒しないと」

消毒セットを抱えてキイが座るベッドへ向かうのは、ロイの部下である中尉のリザ・ホークアイだ。
ちなみに「綺麗ですねー」と初対面で口説いたのはキイである。

「女の子なんだから」

「うい」

キリリとした目で見つめられ、また綺麗だな、とキイは思った。

「…怪我?」

「ん?」

「これ」

眼帯を少しずらして消毒を済ましたリザは、テープを貼る前にキイの眼帯を軽く押した。

「違います」

「え?」

「誇りです」

リザはまたキイの顔を見たが、やっぱり何時もと変わらなかった。



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