「なんでだよ親父!!なんで止める!?」

「なんでもだ、殴り込みなど許さん」

倉庫に集まっているのはカヤル親子と炭鉱マン達。
ついに堪忍袋の緒が切れた彼らは軍の施設のへと殴り込みをしようと意気込んだのを、ホーリングが立ちはだかったのだった。

「親方が止めても俺ぁやるぞ」

「ああ、もう限界だ」

「刺し違えてでもヨキのツラに一発ぶちこんでやる!」

男達は言うが、ホーリングは折れなかった。

「だめだ!皆を犯罪者にする訳にはいかん!」

「だけど…!!」

「はーい皆さんシケた顔ならべてごきげんうるわしゅう」

「うわー憎たらしい顔…いたっ」

突然の来客達に、彼らの機嫌は一気に曲がった。
やってきたのはエルリック兄弟とさっきまで無かった平たい箱を脇に抱えたキイ。
因みに今のは、エドワードのあまりの清々しい笑顔に決して独り言には聞こえない音量の独り言を呟いたキイに、彼が制裁を下したのだった。

まぁとにかく、そんな三人組をいかにもやな顔で迎えたカヤルが口を開いた。

「…何しに来たんだよ」

「あららここの経営者にむかってその言い草はないんじゃないの?」

「てめ何言っ…」

ばっ、とキイが突っかかろうとする一人の男の前に出した数枚の紙は、先ほど彼女が抱えていた箱の中身のモノだった。

彼らは不思議そうにそれを凝視したソレは、

「………これは…」

「ここの採掘・運営・販売その他全商用ルートの権利書でーす」

「なんでおめーらがこんな物持って…」

もう一度よく紙を覗き込んだ男は、気づいた。

「あ―――――!!
名義がエドワード・エルリックって!?」

「「なにぃ!!?」」

ニヤリと笑って、エドワードは両腕を広げて街を差した。

「そう!すなわち今現在!
この炭鉱はオレの物って事だ!!」

うそ――――――ん!!

絶句する彼らを他所に、エドワードは「…とは言ったもの、」なんて肩をすくめ、両手ひらりと上げた。
定番の"困ったポーズ"である。

「オレたちゃ旅から旅への根無し草こんなもの(権利書)なんてジャマになるだけで…」

絶句する男達お構いなしに兄弟は続けて話せば、ホーリングは感づいた。

「…俺達に売りつけようってのか?いくらで?」

「高いよ?」

ニヤリと笑うその姿は悪ガキそのものだったとのちに誰かが語った。
(※誰かはご想像にお任せします。)

「何かを得ようとするならそれなりの代価を払ってもらわないとね」

「ぬ…」

「なんてったって高級羊皮紙に金の箔押し」

悔しそうに歯噛みするホーリングを尻目に、エドワードはキイが持っていた紙を横から取り上げ樽の上にバサリと載せると、彼曰わく鑑定をはじめた。

「さらに保管箱は翡翠を細かく砕いたものでさりげなくかつ豪華にデザインされてる。うーんこいつは職人技だね、おっと鍵は純銀性ときたもんだ」

ベラベラと口達者に話すエドワードに唖然と口を開くだけの男達。そして、エドワードは人差し指を提案のごとく上にあげ――、

「ま、素人目の見積もりだけどこれ全部ひっくるめて―――
親方んトコで一泊二食三人分の料金

――――てのが妥当かな?」

不適に、笑った。

「あ…等価交換…」

呟くカヤルにより我にかえったホーリングは自信の目を手で覆った。
笑うしか、無かった。

「はは……ははははたしかに高ぇな!!

よっしゃ買った!!」

「売った!!」

交渉成立。そのとき、

「錬金術師殿これはいったいどういう事か!!」

荒々しくドアを開けてやってきたまたの来訪者は護衛を引き連れたヨキだった。
顔を青くさせ、なぜか手にいっぱいの石ころを持っている。エドワードはヨキに気付くと呑気な顔で権利書を持ったホーリングを指した。

「これはこれは中尉殿、ちょうど今権利書をここの親方に売ったところで」

「なんですとー――――!!?
いや、それよりも!あなたにいただいた金塊が全部ただの石くれになっておりましたぞ!どういう事か説明してください!」

「…いつ元に戻したの」

「さっき出がけにちょろっと」

「へぇ戻るんだすげえ」

エドワードは意地悪な笑みを浮かべ、キイはキイで若干場違いなことを言って感心していた。もちろん小声である。

「金塊なんて知りませーん♪」

「とぼけないでいただきたい!金の山と権利書を引き換えたではありませんか!これではサギだ!」

「あれ?権利書は無償で譲り受けたんですけどね、ほら念書もありますし」

「はうっ!?」

エドワードはにこやかに権利書の文字を指差すとキイに権利書を手渡した。

「ぬぐぐ…この取引は無効だ!お前達!権利書を小娘から取り返……せ!?」

ヨキは権利書をもつキイを指差し、護衛は護衛で素早くキイの腕を掴んだ瞬間、彼らより大きな男が彼女の前へと立ちはだかった。

「力ずくで個人の資産を、ましてや女の子相手に乱暴に取り上げようなんていかんですなぁ」

「これって職権乱用ってやつか?」

「う、うるさいどけ貴様ら!小娘共々ケガしたくなかったらさっさと…」

「炭鉱マンの体力なめてもらっちゃ困るよ中尉殿」

べきごきと骨を鳴らす男、バックにはその仲間達。迫力満点な彼らが軍人達の顔を青くさせるには容易かった。

しかし、彼女も凄かった。

ぐんっ

「はっ!?」

キイの腕を掴んでいた軍人の体が、浮いた。そして一気に頭から床へとダイブした軍人、勿論一発KO。
軍人を見下ろすは、ネクタイを直す背負い投げをした小さな少女。

「小娘なめんな」





「ひい!!」

どてばたとぶっ倒れた部下達に、ヨキはさらに顔を青くした。そして、

「あ、そうだ中尉」

「(びっくう)」

「中尉の無能っぷりは上の方にきちんと話を通しときますんで。
そこんとこよろしく」

さわやかな笑顔で語尾にハートをつけて言ったエドワードの報告は、この男にとって死刑予告にしか聞こえない。

ヨキ中尉、南無三。

「よっしゃー!!」

「酒持って来い酒―――――っ!!」

うおおおおおおおお!!!

「親父…」

カヤルが涙ぐんで見たその先は、

「飲めーっ!!」

「飲まねぇと大きくなれんぞー!!」

「未成年者に酒飲ますなよ!!」

「なにぃ!?俺がおめー位の年の頃なんてなぁ」

「嬢ちゃん強ぇーなぁ!!」

「格好良かったぜ!」

「鍛えてるんで」

男達に囲まれたエドワードとキイの姿だった。

「エドは魂まで売っちゃいなかったよ」

「ああ、そうだな」

こうして、長い長い夜の宴会は人々の歓喜は声と共に幕を閉じたのだった。

「もう食べられない…」

「またおなか出して寝て!
だらしないなぁもう!」

「アルお母さんみたいだね」

「……。」

閉じたの…だった。


(飾り立てられた虚構世界で)



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