「ひでぇ…」

「昨日の夜ヨキの部下が親方の店の周りをうろついてたの俺みたぞ」

「畜生…。汚ぇマネしやがる…」

目の前に広がるのは、変わり果てたホームと、虚しさだけだった。

「……親父が錬金術をやってたのはこの街を救いたかったからなんだ」

木々から上がる煙、哀れみの表情しか浮かばない街の人間達。キイとエドワード達はそこにいた。看板を抱え涙する母と、彼女に肩を添える父を見てカヤルは呟いた。

「なぁエドあんた黄金を錬成できる程の実力者なんだろ?
ぱっと錬成して親父…街を救ってくれよ…!」

カヤルはエドワードへ遠慮がちに顔を向け、懇願する。

「だめだ」

しかしエドワードは、それを拒否した。

「そんな…いいじゃないか減るもんじゃないし!」

「錬金術の基本は【等価交換】!あんたらに金をくれてやる義理も義務もオレにはない」

「…………」

淡々と答えるエドワードをキイが黙って見ていると、カヤルは彼のコートを荒く掴み、吼えた。

「てめえ……てめえそれでも錬金術師か!!」

涙をためて吠えるカヤルを、エドワードは真っ直ぐな目で彼の目を見返した。

「『錬金術師よ大衆のためにあれ』……か?」

掴まれたコートを腕から払い、エドワードは続ける。

「ここでオレが金を出したとしてもどうせすぐ税金に持っていかれ終わりだ、
あんたらのその場しのぎに使われちゃこっちもたまったもんじゃねー

そんなに困ってるならこの街でて違う職さがせよ」

「小僧、おまえにゃわからんだろうがな」

コートを直しつつ背を向けたエドワードに、戻ってきたホーリングは言った。

「ここが俺達の家で、棺桶よ」




「兄さん待ってよ!

本当にあの人達放っておく気…「アル」

アルフォンスとキイが追いかけて着いた場所は、大量に積み上げられている炭鉱の荷台である。

「このボタ山どれくらいあると思う?」

「?1トンか2トンくらいあるんじゃない?」

「よーし、今からちょいと法に触れることするけどおまえら見てみぬふりしろ」

「なに?なんかするの?」

「金を錬成する」

「まじでか」

よいしょ〜とトロッコへよじ登り言う兄と、それに関心したような表情をした気がする用心棒に、アルフォンスは思ったことを口にした。

「…それって共犯者になれって事?」

「ダメか?」

パン!手を合わせ、2人を見下ろすエドワードに高橋は突っ込んだ。

「やる気満々なヤツにダメって言ってもなぁ」

「わかってんじゃねぇか」

「それに…」

「あん?」

「鋼の錬金術師殿の腕、見てみたいし」

エドワードは笑い、石へと手を突いた。

「なぁに、バレなきゃいいんだよバレなきゃ」

「やれやれ悪い兄を持つと苦労する…」

「おおー」

荒々しい光が、夜の空を照らした。





「…………………あの…」

「炭鉱の経営権を丸ごと売ってほしいって言ってるんだけど」

軍人達は、唖然として目の前の状況に目を見張っていた。

彼らのもとへやってきたエルリック兄弟とキイの後ろにあるのは、金の塊、多数。そして金を錬成した張本人エドワードは、腕を組んでヨキに言った。

「すげ…」

「全部本物…?」

「足りませんかねぇ?」

「めめめ滅相もない!!」

ヨキはエドワード達に背を向けると、早速と言わんばかりに賄賂の計画をたてはじめる。それからそれから…とニヤけて呟く姿はなんとも気持ちが悪い。

「それから……」

と、チラリとヨキはエドワードを見ると彼も察したのだろう、ニッコリと輝いた笑顔で対応した。

「ああ、中尉の事は上の方の知人にきちんと話をきちんと話を通しておいてあげましょう」

「錬金術師殿!!」

「ははは。でも金の錬成は違法なので…バレないように一応、『経営権は無償で穏便に譲渡した』っていう念書を書いてもらえるとありがたいんですけど…」

「おお、かまいませんとも!では早速手続きを…」

こうして、見事にヨキ中尉は作戦の罠に掛かったのだった。

「しかし錬金術師殿もなかなかの悪ですのう」

「いやいや中尉殿ほどでは」

「「…………」」



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