偶然なんだけど、すげーもん見ちゃった。


私は自慢じゃないが口数が少ない。そしてもういっこ言えば周りの人達とは違う、と思う。
要は根暗だ。空気と言えばいいのか、自重というか、自分の立場を理解しているだけ。

そんなわけで入学初日から一人浮きっぱなし、今までも基本一人。まぁどちらかといえば一人が好き、というか群れるのを好まないから別にどーでもいいのだけれど。


だけど、いつものように静かな裏庭の一つしかないベンチ、そこで自前の弁当でお昼ご飯を食べようとした。


したのだ、けど。

「〜〜、〜」

「…」

ベンチに座っているのは男と女、その二人が絡みに絡み合って顔を合わせている。
女は喘ぎ声っていうかとにかく甘ったるい感じの声を途切れ途切れ漏らして、男にいたっては女の制服に手を遠慮なく突っ込んでる。


まぁ、これが今現在見たすげーもん。

まぁ、言わずもがなお楽しみ中。


一瞬固まってしまったが直ぐに冷静になり、今自分のするべきことを実行する。
直ぐさま角に戻り離れる直前、一瞬だが、男と目があってしまった。気のせいとか曖昧にするつもりはない、バッチリ視線が合わさったのを感じた。

しかも男は自分と同じクラスの人。(薄々気づいてはいたが)
彼が空気の私に何かするとは思えないから、そんな気にすることじゃないのだけれど。

「……」

裏庭にあるあのベンチ。
なぜか影の隅っこにあって、だけど陽のあたり具合が凄くよくて誰もいないから凄く静かで、入学した当時からのお気に入りだった。
だから次からはあそこにいけないのかと思うと、ちょっとしんみりしたかんじだ。

まぁ、面倒ごとに絡むくらいなら別にいい―――――

「おい、」


……………。


後ろから聞こえた低い声。
振り返れば先ほどと同様に見えるあのクマのひどい眼孔。

「なに?トラファルガー君。」

虎模様みたいなモフモフ帽子、刺青だらけの腕、刺青と同じプリントのパーカー。
先ほどイチャコラしていた男、
トラファルガー・ロー。

なんで追っかけて来たんだろう、面倒なことは嫌いなのになぁ。

「見てたか?さっきの、」

「うん。」

即答。

目があったくせによく言うなぁ、なんてめんどいから言わない。

「へぇ、そのわりには随分冷静だな。」

「最初はビックリしたよ。」

そう言うと彼は薄ら笑いを浮かべる。何が言いたいのだろう、この人。

「さっきの場所に用があったのか?」

「そうだけど」

「……へぇ、」


「…別に人に言ったりしないから」

なんだかめんどくさくなってきたので、とりあえずさっさと立ち去ろうとした。

「まあ待てよ」

…道を腕でふさがれた。なんだコイツ。

「なに?」

「初めて見たときから思ってたんだよ」

そう言うと彼はもう片方の手も持ち上げて、私を捕まえる感じに挟み込んだ。

もう一度言おう、なんだコイツ。

「そのスカした顔、歪んだらどんなカワイイ顔になるんだ?ってな。」

「トラファルガー君趣味悪いね、さっきの子の方が絶対いい子だよ。」

「はっ、本気でそう思ってんのか?」

「少なくともトラファルガー君にとっては私よりイイ子じゃないの?」

そう力なく言えば、彼はまたニヤリと笑って腕をゆっくり折って私に顔を近づける。そして私の耳元に自身の唇を寄せると、息を吹きかけるみたいに囁いた。

「…お前もイイ子にしてやろうか?」

正直、私は異性に〈そういう〉ことをされた経験は微塵ともない。だから普通の女の子みたいに照れたり羞恥心で顔に熱をためるかと思ったら、そうでもなかった。

むしろなんか羞恥よりイライラが増して。

別にからかったりしてきたのがムカついたんじゃない、っていうかそんな下らないことでムカついたんじゃない。

私が気に入らないのは。

「!?」

顔をってか唇を近づけてくるトラファルガー・ローのデコをおもっきり指で弾いてやった。
正式名所は《デコピン》。

彼が驚いている間にサッと腕から脱出する。

「私は〈そういう〉ヤツらじゃない、ていうかそんなんで私は流されたりしない」

「………」

「最初はしょうがないって思ったけど、ムカついたから言っとく


私の場所を汚すなよ。」

シュッと拳を前に突き出して言ってやる。

「次シたらデコパンするよ」

そう言って、教室に足を向けた。仕方ない、お弁当は教室で食べよう。

「…私の場所、ねぇ、」

トラファルガー・ローの最後の一言は聞こえなかった。







ぼくのわたしのおきにいり



(お気に入り、みぃつけた。)


ーーーーーーーーーーーーー

破廉恥の塊です、羞恥心でいっぱいです(うーわー)




- ナノ -