※創作です。血表現注意。



































満月の夜。


とある、大きく絢爛豪華な屋敷。
月明かりに美しく栄える屋敷の内側は、地獄のようだったと生き残った使用人は語る。



「はぁ、はあっ」

この屋敷の主は、震える手で自室の箪笥を開け、もつれながらも拳銃の弾を込める作業に勤しんだ。兵や使用人はもういない。自らが彼らを盾にして使い物にならなくなったのだから。

「くそ…くそ…!」

やつが、くる。やつが。

逃げねば、しかし逃げ場がない。殺さねば、殺される。







ドンッ!!

爆発の音と共にドアが跡形も無くなり、もうもうと溢れる煙から姿を見せた男がいた。ぎら、と音がつきそうな瞳孔は一度辺りを見渡し標的を見つけるとそれに向かって靴底を鳴らした。

「よう王サマ。約束通り殺しに来てやったぜ

遺言は決まったかい」

王と呼ばれた男はガクガクと震える短い手で拳銃を握っていた。それが意味を為すかと言われれば気休めにしかならないだろう。
王は男の帽子で隠しきれていない額の傷を見た。

「き、貴様、あの時の、」

「ああそうさ。8年前王サマが直々に処刑した女の身内だよ」

「き、貴様が!貴様が勝手に飛び出したのだ!私の馬の道を阻なければ蹴られずにすんだ!

それを!あの女が!」


「『王などではない。』


たったそれだけで彼女を殺したのか?わざわざ服を剥いで辱めて、俺に彼女の血を浴びせたのか?

彼女の言葉が図星だったからじゃないのか?」

「う、うるさい!黙れ黙れ!!貴様が悪いのだ!貴様ら小汚いガキが私の前を歩くのが―――」

拳銃を男に向け怒鳴り散らす王が、突然黙った。
そのかわり、王は喘ぎ、叫んだ。

銃を持つ彼の手と脹ら脛に深く深く潜りこむ大きなナイフは、血が溢れ出る前までまるで王の一部のようだったろう。

「まあいいよ。そういうの聞きに来たんじゃないし。
俺は自己満足を満たしに来ただけだ。」

「あ、ああ、あああ、」

「一瞬でなんか逝かせねぇよ。あと…そうだな。死んだら顔半分残して全裸であんたの国旗に飾ってやる。

今まで権力振りかざしたアンタが自分の旗の上で死ねるんだ。本望だろ?」

「た、助けてくれえええ」
「遺言はもう聞いた。」


落ちた拳銃を、男は拾って、


ぱん!ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん!ぱん!


銃口から吐き出された全ての弾は王のキッチリ顔半分に埋め込まれ、事切れた。

男は空の拳銃を放り、上を見上げる。まん丸な月が見える大きな窓は、男の顔を、頬に伝う滴を照らした。

「……ごめんな、姉ちゃん。」

月は今日も美しい。




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