「…赤」

私がこうつぶやいたのも無理は無いと思う。
なぜかと言われたら自販機の前にその赤、つまり赤髪のリーゼントがしゃがんでいるからだ(しかもなんかうなってる)。
私も(自分で言うのもなんなんだが)喧嘩っ早い質のせいか(あくまでも不可抗力だ)(絶対勝つけど)周りから不良なんて呼ばれてはいるが、この目の前の男と比べたら可愛いものだと思う。

ようはなにが言いたいかってーと、この男は恐らく 桜木花道。
つーか、同じクラスだし。一回も喋ったことないけど。
この赤髪も、こんなに近くでみたのは初めてかもしれない。

「…ぬ?」

赤、という言葉に反応したのか、桜木がこちらを向いた。
髪のことを言われてイラッとした顔と、困り果てている顔が混じっている。ちょっと面白い。

ほんの、好奇心からだった。

「ん」

桜木が此方を向いた瞬間、私が拳を差し出した。開いた手のひらには10円玉。

「!」

「これあげるから、早く買って。いつまでたっても買えやしないから。」

そう言って桜木の右手をつかみ、手のひらに載せた。
何で知ってんだてきな目で私を見てる桜木。何で知ってんだって、アンタさっきから110円手に持って「10円…」って門前喰ってたじゃないか。(だから私も買えなかったのだ)

「ほれ早く」

「お、おう」

ちゃりんとその10円を入れて、お金が入ったせいでついた赤い小さなランプを押して、がしゃこんと出てきた缶。それを私がさきに取り出し桜木に渡してから、私も好きなミルクティーを買った。(桜木は呆然と私を見てた)

「そんじゃ。」

「ぬ…お前…」

「あ、そうそう」

自販機から去ろうとした私を桜木が止めようとしたが、知ったこっちゃない。
くるりとまた桜木を見てから、ニヤリと笑った。
そこでふと思った。笑ったのなんて、いつぶりだろう。

「私、赤、好きだよ。格好良くて。」

そう言ってから、またくるりとまわって私は歩きだした。

ほんの、ホントにちょっとした、好奇心だった。

なのに…




「お前は今日から桜木軍団の一員だ!!」




なんのこっちゃい。


運命のい髪と10円玉


(え、はい?えぇっ?)
(諦めな嬢ちゃん、花道はこういうやつだ)
(今日からオレ達の仲間だー!!)

(えぇー)







いやそんな、たかが10円で。





−−−−−−−−

この赤を格好良いと言ってくれたのは、格好良い少女だった。


(スラムダンク)




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