間に合わないんじゃかとキイは思った。二度とあえないんじゃないかと、思った。
呆けてたそれが変なところで覚醒してしまうのだから我ながら質が悪い。

このまま突っ走れば死刑台には間に合うだろう。だが、それでは襲い。彼らは今その上で“ハデ死刑”とやらを行っているのだから。

――もう、ヤケクソだ。

「っくそ!」

軽く舌打ちをして、脚に力を込める。そして思い切り地を蹴り上げれば、アッと言う間に死刑台の上。
だから、鞘を抜かないで刀片手にバギーの顔目掛けて構え、あとは重力に従うだけ。

そんなときだ。死刑台に激しい光が落ちたのは。

一瞬なにが起こったのかが雷わからなかったが、眩しすぎる光に目が潰される、と反射的に腕で顔を覆う。
雷が落ちたと言うのは後に知った。
だから、光が消えたあと、一緒に死刑台も消えてるなんて思わなかった。

――まあ、うん。雷が落ちたんなら死刑台もぶっ壊れるだろうな。

なんて考えるのも、予定通り重力に従い、“崩れ落ちた”死刑台の上に落下したあとの話――。

…そうそうそうそうそうそうそ!!!」

「ん?」

「ごめ―――――――――ん!!!!」

ガシャアアアアアン!!!



ルフィの下に隕石のごとくそれは落ちてきた。大きな木材がさらに細切れになり、パラパラと上から降ってくる。

ガラッ…

「ビックリしたー」

ゴムの体だったためとくに怪我無く這い出てきたルフィ。しかし一度焼け焦げた木材の中に突っ込めば煤と雨でドロドロだった。
ルフィが立ち上がったと同時に走ってきたのは男二人。
先ほどまでルフィを助けるべく海賊集団をなぎ倒していた緑髪と金髪である。

「おい、お前神を信じるか?」

「バカ言ってねェでさっさとこの町出るぞ。もう一騒動ありそうだ。
おいルフィ!」

「んー」

緑髪の男がルフィを呼ぶが、彼はなぜか木屑をガラガラと漁っている。

「お!」

そして何かを掴んだらしい。そのまま腕を引っ張り出すと、出てきたのは赤い髪の女。
フードは衝撃で剥ぎ取られ、燃えるような赤い髪と額に彫られたジョリー・ロジャーに似た刺青が露わになっている。

「おーい、大丈夫かー?」

「な、なんとか…」

ルフィがペチペチ頬を叩けば、キイは目を回しているもののなんとか答えることが出来た。

「にししっ」

「…ん?、うわっ」

上からうれしそうな笑い声が聞こえた。キイは不思議に思い、顔を上げようとして何かが身体に巻きついた。

「つっかまえたー―!!
もう逃がさねーぞ!!」

「あ…」

「おいコラクソゴム気安くレディに触れんじゃねェおろすぞ!!」

巻きついてきたのはルフィのゴムゴムの腕だ(なんだか金髪の男が騒がしかったが)。そこで、彼女は気づいた。
まだ“鬼ごっこ”は続いていたのだと。

「えー、だってキミ助けようとしたわけだし…」

「助けようとしたってことは仲間になってくれるんだな!!」

「キミへんなとこ鋭いなぁ」

わかってはいた。海賊を助けるという意味が。
仲間になるならないはともかく、スモーカー君には怒られるだろうなあ。なんてしみじみ思ってしまった。

「つーかソイツ誰だ」

「新しい仲間だ!!」

「はあ!!?」

「え、ちょ…」

キイを見て疑わしげに聞いてきた緑髪の男に、ルフィはまた嬉しそうにそう答えた。
まだ了承すらしていないその紹介をキイは否定しようとしたが緑髪の男の声に遮られたし何よりさっきまで憤慨してた金髪の男がなぜか目をハートにして喜んでいる。

カオスだ。そう思った矢先。

「広場を包囲!!海賊どもを追い込め!!」

「きたっ!!」

「おい!んなことしてる場合じゃねェ、逃げるぞ!!」

「おうっ!」

「はっ?」

ヒョイッ

「あれっ!」

そのとき、キイの視界が大きく浮いた。
ルフィに担がれてることに気づいたのはすぐ後である。

「逃げろォ!!!」

「あれー―――――!!?」

「おい道どっちだ!?」

広場が一気に遠のいた。
ガクガクと揺れる身体を何とか仰け反らせ、ルフィへ顔を向けることができた。

「ちょっと、ルフィ!」

ずっと、不思議ではあった。

あの出会いから、この男は己のなにを見つけた?
あれから、この男は己の何に惹かれたというのか。

広場のど真ん中で寝てるのが面白かったから?
この額の刺青がカッコよかったから?
それともこの逃げ足で己をいざという時の囮にするつもりなのか。

「お前が!」

不意にかけられた言葉に、周りの騒音に邪魔されながら何とか聞くことができた。

「海賊やるか決まるまで待ってやるから。とりあえず今は逃げねえとな」

「なんでそんな…ほかにすごい人なんているだろうに…」


「おれは!おまえがいい!」


―――――…。

「…言っとくけど、わたし弱いよ」

「いいさ!おれが守る!」

「ははっ、カッチョイー」

――そうだ。
助けた理由なんて、そんな複雑じゃなかった。
(この男のように、もっと、簡単だ)

「海賊かあ…」

ぐい、とフードを被り直して、呟いた。





「スモーカー大佐!あれは…」

「わかってる。キイが攫われた」

黒鍔の長刀に、本人がお気に入りと言っていた黒い兎耳のフード。
それが、あの男に担がれていた。

ち、と舌打する。
(あの、おひとよしが。)

「この“白猟のスモーカー”!!!
本部大佐の名に懸けて、あの男絶対に島から出さねェぞ!!!」



「海賊王になる男だ!!!!」

「わりぃ、おれ死んだ」


――あの笑顔が、カッコいいと思ったからだ。

(電流ビリリ、落ちた)

@ながいいいいい

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