たたたたたたた・・・。
「そろそろいいかなー」
「お!兎ちゃん、鬼ごっこかい?」
「そー、捕まったら海賊の仲間になんなきゃなんだって」
「ははは。そりゃソイツは災難だなあ!」
「兎ちゃんと鬼ごっこして勝ったやつが…」
ドカアアアン
ドドドドドドドドド
「見つけたぞキイー!」
「なにー!!?」
「…はは、すげー」
「手助けしようか?」
「いいー、ズルきらーい」
ドビュンッ!!
「キイー!まてー!!」
ギュン!!
「…こりゃあたまげた」
呆然として、八百屋のオヤジは言った。
★
「くそー」
キイを仲間にすべく始まった“鬼ごっこ”なわけだが、しかし敵(?)もあっぱれ、伊達に“脱兎”とは言われていない。キイはなんなくルフィから逃げ果せていた。
「また見失っちまった!これじゃキリねえよ」
あるときは姿を一切見せなかったり、わざとルフィの前に出て遊んだり、対抗心から駆け回っているが、やはりというか、いい加減痺れがきたようで。
「ん?まてよ」
と、駆けながらも何かを閃いたらしいルフィは空を見上げた。
「高いところにいけば見つかるかもしれねえ!」
思いたったらすぐ行動。頭に浮かんだ場所を目指し道をビューンとUターンするのであった。
★
一方、ルフィから逃げきったキイの向かった先は武器屋だった。一休み、のつもりでもないが、彼がこのあたりを通ったらまた遊んでやろうと考える。
「まっさーん。って、あれ?たしぎじゃん」
「あ…キイちゃん!」
「ん?」
大量の武器に囲まれた空間の中にいたのは、友人であり悪友の良き部下であるたしぎ。彼女は何故かへたり込むように地べたに座り、そばにいる緑の短髪の男を呆然と眺めていたことに、キイは不思議と首を傾けた。入ってきたキイに気づきこちらを向いたたしぎと緑髪の男のもとに近づいてみる。
「どしたのたしぎ」
「や、あはは…腰が抜けちゃって」
「なんで?一目ぼれ?」
「な…!」
「?」
いきなりの問題発言に、それの類に対応が無いたしぎは思わずぼっと顔を真っ赤に染め上げた。
「な、ななななにいってるのキイちゃん!!」
「ん?違うの?」
「そそそそそそんなわけないじゃないですか!!
そ、それよりこのひと、すごいんですよ!」
「ふーん」
どうすごいのか詳しく説明している(座りながら)たしぎをよそに、聞いたわけじゃないのにキイは相槌をうちその男をじいっと見上げる。鍛え上げられてる所為か体質なのか、背が高くキイの頭が肩にあるかないかな差である。彼は彼で見上げられてることに気づかないわけも無く、殺気などではなかったため別に不快ではないが、気にはなって「なんだ。」と視線の矢の先を見下ろした。
「いや、この子が言うならすごいのかなって思って」
「あ?」
「おい、にいちゃん!」
その時、どたどたと駆けてきたのは先ほどまで不在だった店主、いっぽんマツだ。その手には彼が店一番の宝だと耳がたこになるほど自慢していた刀が抱えられていた。
「まっさんそれどしたの、散々出さない触んなって言ってたのに」
「おう!?な、なんだ兎か…。今おまえに構ってる暇ぁねえんだよ!」
そう言っていっぽんマツは、どん、とそれをカウンターに置いた。緑髪の男を見据える彼の目は真剣そのものである。
「造りは黒漆太刀拵、刃は乱れ刃小丁字、良業物“雪走”!!斬れ味はおれが保障する!!
…ウチはたいした店じゃねえが、これがおれの店の最高の刀だ」
その代物を前に男は金が無いと手を振るが、いっぽんマツは男の持つ刀、“鬼徹”を含め金は要らないと胸を張って言う。その眼差しを見て、キイは男に近づきその逞しい肩を軽く押し掴んだ。
「もらっときなよおにーさん。まっさんドケチだからこんなこと滅多にないよ」
「だからさっきからなんなんだおまえ」
「さっきはダマそうとしてすまなかった」
どうやら彼は男の懐に携える“和道一文字”(大業物)を騙し盗ろうとしていたらしい(盗ろうなんてしてねえ!安い値段で手に入れようとしただけだ!! byいっぽんマツ)そのお詫び、というだけではないらしく、この男を凄腕の剣士と認めたの証なのだとキイは思った。
「お前さんの幸運を祈る!!!」
一時は犯罪めいたことをしようとした男だが、“視る眼”はあるのだ。
名刀三本を腰に下げ、心なしか満足気に店から出て行った男を、いっぽんマツは誇らしげに、たしぎは先ほどと変わらず呆然として、最後にキイは特に感情の無い眼でその閉まった扉を見ていた。
一部始終を見ていた彼の妻は呆れ顔で夫に言う。
「おやおやドケチのあんたが家宝まであげちまうとはね」
「女はすっコンでろっ!!!」
かっこいいことをぬかすもフロ掃除を命じられ台無しなオヤジを放っておき、キイはたしぎへと手を差し伸べる。
「立てる?」
「あ…ごめんなさいまだ…」
いまだ腰が抜けて立てないことに顔を赤らめるたしぎに、呆れたように息を吐きながらもキイは言う。
「いいって、いつも言ってるけどわたしより年上なのにそんな畏まらなくても」
「い、いえ。これはクセみたいなものですし、それにスモーカーさんに認められた人なんてそういないんですから…」
「そういやキイ。おめえなにしに来たんだ」
「おめえも刀の研磨(けんま)か?」と、フロ掃除をしに裏へと引っ込もうとして、今更にいっぽんマツは聞いてきた。
「ん?あー、そうだ。たしぎ、悪いんだけどまたお仕事増やしちゃうかも」
「え?」
「あ?お前また海賊相手に追いかけっこなんてしてんのか」
「鬼ごっこだってまっさん」
「どっちでもいいやいあんなおっそろしい遊び!おめえの遊びに付き合わされて化けモンのところに誘導されちゃたまったモンじゃ「あんた!まだくっちゃべってるのかい!」ごめんなさいかあちゃん!!」
「か、海賊!?海賊がいるんですか!?」
「ん?まあ本人はそう言ってたけどね。ところでたしぎ」
「は、はい?」
「腰治ったら早く行ったほうがいんじゃない?スモーカーくん鬼の顔して待ってると思「ああっいけない!ありがとうキイちゃん!」いってらっしゃーい」
その顔を思い浮かべたのか、腰が治ったらしいたしぎは顔を真っ青にして店から出て行った。
「…面白い子だったから、誘導は今のとこ迷ってるけどね」
柔らかく笑う彼女は知らない。
己を海賊へ勧誘した少年が、
・・・・・・・・・・・・
三本の刀を抱えた男の船長だということを。
彼女は知らない。
己を見つけようとしてる少年が、彼の海賊王が死んだ処刑台の上で殺されかけていることを。
(鬼事)
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